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サイモン・レン=ルイス「7月にコロナウイルス関連の制限をすべて撤廃した結果として,ジョンソンが何人の人々をみすみす死なせているか」(2021年10月12日)

[Simon Wren-Lewis, “How many people is Johnson allowing to die as a result of abolishing all COVID restrictions in July?” Mainly Macro, October 12, 2021]

もちろん,確かなところを知るのは不可能だ.ただ,下記のグラフからいくぶんなりとうかがい知れる.


マスク着用をはじめとしてイギリス国内で実施されていたコロナウイルス関連の制限を〔イギリスの現首相の〕ジョンソンが7月19日にすべて撤廃して以降,イギリスの新規感染者数は100万人当たり 500前後で上下変動をつづけている.これと対照的に,(イギリスと同様のデルタ変異株ピークを経験した)スペインでは,新規感染者数は100万人当たり 50人ほどにまで徐々に下がっている.そして,スペインでは,様々な場面でのマスク着用義務づけなどの制限を続けている.フランスのデルタ株の波はイギリスより少し遅れて到来したが,その収束後からは新規感染者数が安定して減ってきている.そして,フランスでも,リスクの大きい場面でのマスク着用をはじめとするコロナウイルス関連の制限を継続している.[1]

「他でもなくスペインとフランスを引き合いに出したのは,〔制限を継続していて,かつ,感染者数が減っているという〕このパターンに合致するからかね?」 ドイツやイタリアなど,似たような規模の他の欧州諸国はイギリスのようにデルタ変異株の大きなピークを経験しなかったし,いまなお,新規感染者は100万人当たり 100件未満と低く抑えられている.死者の割合が小さいことの他に,感染者数が多いことが重要な理由は3つある.第一に,感染者数が多ければ多いほど,コロナウイルス問題は長引く.第二に,感染者が多ければ,仕事を離れる人も増える.第三に,感染者が多いと,経済が平時に復帰するのが引き留められる.なぜなら,多くの人が知り合いとの交流・社交を最小限に抑えるからだ.これは,社交消費の減少につながる.

死者数の観点では,これはどんなことにつながるだろうか?

死者数は,予想どおりのラグをはさんで感染者数を後追いしているのが見てとれる.スペインでの新規感染者数は8月のはじめに減少している一方で,フランスでの感染者数は8月の終わりごろに減少している.そして,スペインでの死者数は9月のはじめに減少しはじめている一方で,フランスでの死者数はそれより数週間あとに減少しはじめている.実際の死者数の観点でこれが意味することを知るために,同じチャートを実際の死者数で眺めてみよう.

目下,イギリスではコロナウイルスによる死者は一日当たり120人以下までしか下がっていない.他方で,フランスとスペインでは,その半分にまで減っている.すると,この記事のタイトルに書いた問いに答えるなら,コロナウイルス関連の制限をとりさったジョンソンの決定の結果として,いま,一日ごとに約 70名の人々がなくなっていると見込まれる.それはつまり,9月のはじめ以降に(フランスとイギリスとの比較で) 1,700人が余計になくなって,しかもいまなお死者が日々増えているということだ.マスク着用その他のほどほどの不便から多くの人々を解放することに,こうした追加の死者数は見合っているのだろうか?

なかには,こう言いたくなる人もいるかもしれない――「1,700名の死者といっても,パンデミックによるこれまでの累計死者数 13万7,000人に比べれば少ないではないか.」 だが,それは比較するために必要な類似点が抜けている.これまでの膨大な累計死者数は,主に,大半の人々がワクチン接種をすませる前に都市封鎖のずさんな実施によって生じた死者だ.他方で,9月以降に私たちが目の当たりにしているのは――そして今後も数ヶ月は目にすると見込まれるのは――全員ではないまでも大半の人々がワクチン接種した上での死者だ.その意思のある人たち全員にワクチン接種をさらに拡大していきつつ穏やかな予防対策をとっていれば,この死者たちは死なずにすんだだろう.終わりのとき(接種できる人々全員へのワクチン接種完了)が視野に入ってきているなかで,私たちの首相と議員たちがマスク着用などを好まないからといって,こうした人々をみすみす死なせている.ここには,首相と彼の政党の価値観が反映されている.

政治家たちに説明を求めるべき人々〔報道メディア〕も,こうした事態すべての共犯だ.それなのに,彼らの多くはかわりにむしろチアリーダーに近い役割を演じている.〔「今日の新規感染者は○○人,死者は○○人でした」といった〕要約の数字こそニュースで短く報じられている.これでは,そうした数字が意味をなさない.感染者数や死者数を他国と比較したり当事者たちの等身大の姿を伝えたりといったかたちで,数字に文脈をもたせる試みはめったになされていない.ようやく BBC が国際比較をしたときにも――このブログで当時書いていたように(こちらも参照)――ぬけぬけとこう言ってのけた.「〔欧州でもイギリスの感染者・死者がとくに多いことが他のいろんな問題にまぎれて〕ほぼ見落とされてきた.」私たちの首相は,「コロナウイルスとともに暮らす」のだと宣言した.そして,それに合わせて,私たちのメディアの大方はこの点を昨日のニュースだと判断したのだ.


原註

[1] もちろん,〔イギリスで〕こうして追加の死者につながったマスク着用義務の終了だけがねらいだったわけではない.児童のコロナウイルス感染への無関心もあった.大人の前でのマスク着用とりやめにはじまり,校舎の換気改善プログラムをまったく行わないことがそれに続いて,最後には,10代の子供たちへのワクチン接種拡大が他国に比べて大幅に緩慢だった.たとえばスコットランドでは,児童へのワクチン接種がイギリスよりもすばやく進み,しかもこれが最終的に政府の管理下におかれている.特定の催しにワクチンパスポートの義務づけないのが,その目当てだ.かたやフランスでは,ワクチンパスポートが求められるために,ワクチン接種率がさらに押し上げられている.他のほぼあらゆる国々では感染者を少なく抑えるための個人の各種制限が継続され,ワクチン接種の推進を続けている.それと対照的に,ジョンソン政権はこの7月に,パンデミック終了を実質的に宣言した.


Comments

  1. 後知恵ではあるけれど、その後ドイツをはじめ中欧北欧はぐいぐいあがってきた。イギリスの水準には達していないけれど。というか、この時点ですでにかなり大幅な増価を見せていた。この論考のような明確な断罪はできないし、スペインにフランスというのはチェリーピッキングのそしりを免れないと思う。
    https://ig.ft.com/coronavirus-chart/?areas=gbr&areas=dnk&areas=deu&areas=nor&areasRegional=usny&areasRegional=usca&areasRegional=usfl&areasRegional=ustx&cumulative=0&logScale=1&per100K=1&startDate=2020-09-01&values=cases

  2. 山形浩生 says:

    この一連のツイートがよくまとまっていて、ヨーロッパは各種の規制が強いところ弱いところ本当に幅があって、件数も時期と場所により傾向がまったくちがい、どんなことでも国の選び方で言えてしまうので、本当に注意が必要だと思います。
    https://twitter.com/cjsnowdon/status/1450798902639218695

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