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デイビット・アンドルファット「ミスリーディングなMMT調査に物申す」

David Andolfatto “The Chicago Booth Survey on MMT” MacroMania, March 14, 2019


シカゴ大学ブース校が経済学者たち対して行った調査(こちらを参照)についてに少々物申しておきたい。この調査は,次の2つの主張について各自がどれほど強く信じているかについて尋ねたものだ。

質問A:自国通貨での借り入れを行う国は,自身の債務を賄うためにいつでもお金を創り出すことができるので,政府の財政赤字を心配する必要はない。
質問B:自国通貨での借り入れを行う国は,お金を創り出すことで自身が望んだだけ政府実質支出を賄うことができる。

当然ながら,調査を受けた経済学者のほとんどが両方の主張を否定した。それは問題なし。でも実は問題ありだ。なぜならこの調査は

現代金融理論(MMT)

と前置きして,このふたつの主張があたかもMMTの核となる信念の一部をなすものであるかの如くしているからだ。

有力なMMT派はこの調査に含まれていただろうか。冗談言っちゃいけない,もちろんそんなことはなかった(MITの人は何人かいたけども。MITもMMTもどちらも似たようなものと思ったのかもしれない)。典型的なMMT派であればこのふたつの質問にどのように答えただろうか。そのほとんどはその他の経済学者とまったく同じように答えたに違いない。そうであれば,どうしてシカゴ大学ブース校は調査の冒頭にMMTなどと置いたのだろう。いろんな可能性があるけれど,そのどれもブース校にとってはおもしろくないものだ。

まずは質問Bからはじめよう。というかこんなのははじめないほうがよろしい。この質問はあまりにも馬鹿馬鹿しくて,答えるに値しない。政府がいかなる資源制約にも直面しないなんて信じている人はいない。

よし,というわけで質問Aについて考えてみよう。この質問が少々誤解を招きかねないものであるというのはもっともな話だ。でもその前にはっきりさせておきたいのは,僕は自分がMMTに関する学術研究の全体についてよく知り抜いているなんて言うつもりはないってことだ。それでもいくらかは読んだことがあるし,何人かのとても頭が良くて思慮深いMMT派とやりとりをしたこともある。彼らの考えの多くについて僕は同意していないけれど,彼らの言っていることの一部について,それが伝統的な考え方と整合的なのか反しているのかを僕は理解していると思う。百歩譲ったとしても,少なくともMMT派の言うことは検討に値するものだ。これから書くことは僕の解釈で,MMT派を代表して言っているわけじゃない。

さあ,財政赤字が「重要である」かどうかという質問について手をつけよう。MMTの主張をもっと正確に言うならば,「自国通貨建ての債務を発行する変動相場制実施国は,自らの債務の未返済という技術的な意味でのデフォルトを心配する必要はない」というようなものになる。つまり,アメリカ政府は満期になった債務を支払うためにいつでもお金を刷ることができるということだ。なぜならアメリカ財務省証券は米ドルに対する請求権なので,政府は(望むのであれば)必要なドルすべてを刷ることができるからだ。

この主張に反対する人は誰もいない。MMT派はこの点を明確にしたがる。というのは,ひとつには一般市民の多くはこの基本的事実を理解していないし,もうひとつにはこうした誤解は時折(もしかしたら頻繁に)政府の「適切な」役割に関する特定のイデオロギー的見解を押し出すために利用されるからだ。

主流派の経済学者は,僕も含め,重要なのは技術的なデフォルトではなくて経済的な「デフォルト」だということを指摘したがる。予期せぬインフレは,何でもかんでも支払うために新しいお金が刷られている中で古いお金を抱えておくことに捕らわれている人の購買力を吹き飛ばしてしまう。MMT派もこれを理解していることは明らかだと思う。それは彼らが政府支出の経済的限界を定義するのに「インフレ制約」にいつも言及するところに見て取れる。こうした考えについては,前回のブログ記事で明確化を試みた。Sustainable Deficitsを参照してほしい。

でも問題はこれよりも複雑だ。それも僕が思うに面白い方向に。ゼネラルモーターズ(GM)のような,ある大企業について考えてみよう。GMは債務と株式の両方を発行する。GMが発行する債務はドル建てなのでGMは破産することがある。でもGMはある種の「お金」も発行する。つまり,従業員への支払いや買収をするために株式を使うこともできる。

株式をさらに発行することによってGMのデフォルトリスクが高まることはない。実のところ,株式がGMの債務を買い戻すことに使われるならデフォルトリスクは下がる可能性が大きい。GMが新株発行によって買収資金を得ようと考えているときに議論の焦点となるのは,GMが新株を刷ることができるかどうかじゃない。もちろんながらGMは望む限りの株式を刷ることができる。問題はその買収によって価値が高まるのか薄まるのかだ。もし前者なら,新たなお金[株式]の発行はGM[の株式という]お金の価値を上昇させる。後者であれば,新株発行はインフレ的になる(GM株式の購買力が下がる)。言い換えれば,GMの負債の未払いそれ自体が重要なのではないという意味において,「財政赤字は重要じゃない」。重要なのはもっと根本的なところにある何かだ。株式の「過剰発行」は望ましくないことかもしれないけれど,その現象自体は表面に現れる症状であって原因じゃない。

アメリカ政府と連邦準備制度(Fed)は実質的には株式を発行している。政府は債務のデフォルトをする必要はない。なぜならアメリカ財務省証券はお金(株式)に変換可能で,Fedはそうすると決めればそうできる。政府にとって問題になるのは,GMと同じく,新たな支出事業によって価値が高まるのか薄まるのかだ。経済がその最大能力未満で運行している場合,それはGMにとってプラスの割引現在価値の投資機会が目の前にぶらさがっているようなものだ。政府が新たなお金を発行しても,賢く使うのであれば,必ずしもインフレ的にはならない。

もちろんどこまでこれができるかという限界はある。上には「賢く使うのであれば」という限定句を置いた。でもそれこそがまさに議論の的となるポイントだ。すなわち,「最良の」資源配分を促すために僕らの制度はどのように設計されるべきだろうか,ということだ。

MMT派はインフレに関する優れた理論を備えていないといったことをよく聞く。あたかもインフレに関する優れた理論が既にそこらにあるかのようだ。でもMMTには例えばThe Failure to Inflate Japan1 で書いたような僕自身の見解と(全部ではないけど)重なるインフレに関する理論があるように思える。MMTは,インフレをコントロールするために金融政策が用いることのできる一連の手段について,より幅広い見方をしているようだ。彼らの見解のメリットについて議論はありうるけれど,彼らを一切相手にしないとか彼らにインフレの理論がないかのように主張する理はない。

もうひとつ聞かれる不満は,MMT派はモデルを作ろうとしないというものだ。ご存知のとおり,あまり多くの数学的モデルがないのは本当のことだ。で,それがなにか?

まず,政策決定のリンガフランカは英語だ。数学は通商言語の一部でしかない。経済学の考えは,日常言語で表現されたときに理解することができる。僕やほかの人たちにとっては,考えを僕らの通商言語で「明確化」しようとすることも有用であり続けている。でも一部の同業者たちは,彼らの通商言語で提示された時にしか主張を理解できないように見える。これが正しいとすれば,それはむしろ悲しむべき状況だ。

そして,MMTはほかのどの思想学派とも同じように時とともに進化しているし,異なる流派からやってきている。モデルを(今!)要求するんじゃなく,交流を行って彼らの考えのいくらかについて明確化に貢献してみよう。どうなるかは分からないけど,その過程から実際に何かを学ぶこともあるかもしれない。

これについては今後も書くけれど,今回はここまで。


訳者おまけ

〔冒頭にリンクされているシカゴ大学ブース校の調査に対する回答のうち,何らかのコメントを書いた人のみ抜粋して以下に訳出した。上段が名前,大学,回答(強く賛成,賛成,どちらとも言えない,反対,強く反対,意見なし,の6つ),答えに対する確信度(1~10),下段がコメント〕

質問A
●マーカス・ブルネルマイヤー,プリンストン,強く反対,9
多くの歴史の例を見よ:1920年代のドイツ,南米…
●ダレル・ダフィー,スタンフォード,強く反対,10
債務の現在価値は債務支払いの現在価値に等しい。したがって現時点での更なる借り入れはその後の更なる支払いを意味する
●アーロン・エドリン,バークレー,反対,7
心配が少ないことは心配がないことと同じではない
●バリー・アイケングリーン,バークレー,強く反対,10
設問の「心配ない」という表現は確かに少々曖昧だ
●レイ・フェア,イエール,強く反対,10
間違いなくインフレが問題になりうる
●オースタン・グールスビー,シカゴ,強く反対,8
「いつでも」ってのは馬鹿げてんね(友人への忠告)
●ロバート・ホール,スタンフォード,強く反対,10
政府は現在の金融制度ではお金を創り出すことはできない。なぜなら中央銀行は準備預金と通貨を額面で維持するからだ
●オリバー・ハート,ハーバード,強く反対,8
この種の行動は,ひとたび経済が最大能力に近づくとすぐさまインフレ,あるいはハイパーインフレすら招きかねない
●ケネス・ジャッド,スタンフォード,強く反対,10
政府はこうしたことを一度は行うことができるかもしれないが,制度的にやろうとすれば将来的に債券を売ることができなくなる。
●スティーブン・カプラン,シカゴ,強く反対,10
どこかの時点でこれは持続不可能になってその国はベネズエラやジンバブエになる
●アニル・カシュヤプ,シカゴ,強く反対,10
お金による資金調達はいくらかの通貨発行益を生み出すが,インフレも生み出し,インフレにはコストがあってシニョレッジの容量には限界がある
●エリック・マスキン,ハーバード,反対,7
お金を刷ることそれ自体が,インフレのリスクなどの問題を生み出す
●ウィリアム・ノードハウス,イエール,強く反対,9
明らかにこれらは心配すべきものだ。しかし,開放経済下では,特に変動相場性と合わされば圧力は低くなる
●ラリー・サミュエルソン,イエール,反対,6
財政赤字はお金を創り出すことで賄うことができる。しかし欠点も利点と同様にあるので慎重に考慮されるべき
●ロバート・シマー,シカゴ,強く反対,8
マネーサプライの実質価値には上限がある。どこかの時点でこれは必ずインフレを生み出す

質問B
●ダレル・ダフィー,スタンフォード,強く反対,10
これが真ならば,そうした国のどれもが世界の産出すべてを買うことができることになる。そんなことは不可能だ
●アーロン・エドリン,バークレー,反対,9
能力には限界があって欲求には限界がない
●レイ・フェア,イエール,強く反対,10
どこかの時点でこの制度は崩壊する
●オースタン・グールスビー,シカゴ,反対,9
共生:どこにそれを送るべきか彼らに伝えると,彼らはどこに行くべきかを伝えてくる
●オリバー・ハート,ハーバード,強く反対,8
質問Aに対する答えと同じ
●ケネス・ジャッド,スタンフォード,強く反対,10
フリードマンは「ただ飯なんてものはない」という本を書いた。彼は〔ただ飯だけじゃなくて〕道路,橋,軍隊,学校,その他あらゆるものも意図していた
●スティーブン・カプラン,シカゴ,強く反対,10
質問Aに対する答えと同じ
●アニル・カシュヤプ,シカゴ,強く反対,10
これが不可能だと多くの国が証明した
●エリック・マスキン,ハーバード,反対,5
通貨の価値が下落して更なる支出が困難ないしは不可能になる地点に至ることになる
●ウィリアム・ノードハウス,イエール,強く反対,8
どこかの時点でハイパーインフレーションによってすべてがめちゃくちゃになる。しかし,これは開かれた世界では無意味な質問だ
●ラリー・サミュエルソン,イエール,反対,6
お金の創出は多くの支出を賄うことができるが,ハイパーインフレ,崩壊,その他の危機の事例はそこに限界があることを示している
●ホセ・シャインクマン,コロンビア大学,強く反対,9
これは質問Aよりも輪をかけて馬鹿げてる
●リチャード・セイラー,シカゴ,意見なし,
この質問は好きじゃない。ある意味においてはこれは正しいと思うが,どこかの時点でインフレが発生する

  1. 訳注;リンク先記事の拙訳はこちら []

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