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デビッド・ベックワース 「Fedによるインフレ目標の実態 ~上限値としての2%~」(2013年9月27日)/「ECBよ、お前もか」(2016年1月26日)

●David Beckworth, “At Least the Fed Has An Inflation Target, Right?”(Macro Musings Blog, September 27, 2013)


この度の危機が勃発してから早5年が経過しているわけだが、Fedは未だに名目GDP水準目標(NGDPLT)を採用するには至っていない。とは言え、この危機の最中に、Fedは正式にインフレ目標の採用に乗り出した。その点についてはちょっとした慰みになる・・・でしょ? 違う? 2012年1月にインフレ目標の採用を正式に決定した際に、FOMC(連邦公開市場委員会)は、2%のインフレ目標という新目標の達成に向けて、真剣に取り組むつもりであることを以下のようにアピールしている。

長期にわたるインフレーションを決定づける主たる要因は金融政策であり、それゆえ、FOMCは、インフレーションの長期的な目標(ゴール)を具体的に(数値で)特定する能力を備えていると言える。この度FOMCは、長期的に見て、PCE(個人消費支出物価指数)ベースで年率2%のインフレ率が、Fedに課せられた法的責務に最も合致するものである、との判断に至った。このように国民に対して、インフレーションの長期的な目標(ゴール)が明瞭なかたちで伝えられることにより、長期的なインフレ期待の安定化につながるものと思われる。長期的なインフレ期待が安定することになれば、物価や長期金利も安定するだけではなく、経済的な攪乱が発生した場合にFedが雇用の最大化を図る能力が強化されることにもなるだろう。

これまでに何度も語ってきたように、経済が大規模な供給ショックにしばしば襲われるような場合には、インフレ目標は問題含みの政策枠組みであると言える(この点については、こちらこちらを参照)。その一方で、総需要ショック(総需要不足)が原因で景気の低迷がもたらされるような場合には、中央銀行がインフレ目標の採用に動くというのは朗報であるはずだ。インフレ目標の正式な採用は――インフレ目標があくまでも暗黙的な目標にとどまっていた場合に比べると、一段と力強く――Fedの尻を叩く格好となるはずだし、上掲の引用箇所で約束されている数々の素晴らしい結果の達成に向けて、あらゆる行動に打って出るようFedに迫る圧力となるはずだ。

それでは早速ながらではあるが、Fedによるインフレ目標の実態がどうなっているか点検してみるとしよう。「コアPCEで測って2%のインフレ率」という基準(Fedが自ら課した基準)に照らして、これまでの結果(実際のインフレ率の推移)はどうなっているだろうか?

どうやら、約束通りの結果とはなっていないようだ。インフレ率は、2%に引きつけられるようにその近辺を行ったり来たり(時に2%を上回り、時に2%を下回ったり)して、均してみると(平均すると)2%に落ち着く・・・というようなかたちにはなっていない。そうではなく、Fedは2%をインフレ目標の「上限値」として設定しているように見える。それと同時に、インフレ目標の下限値は1%のあたりに置かれているようだ。「1%~2%」という目標レンジ(下限値を1%、上限値を2%とする、幅のあるインフレ目標)は、今回の危機が勃発してからずっと、その効力を発揮し続けているように見える。さらには、以下のチャートをご覧いただければわかるように、Fedによる国債の購入額(黒色の実線)は、その後のインフレ率(青色の実線)の変化と密接に連動している(インフレ率の上下動に先行するかのようにして、増減している)ようでもある。Fedによる量的緩和プログラムは、一見したところでは、その場しのぎであるかのような節が感じられるが、実際はそれほどアドホックなものではないのかもしれない。Fedによる量的緩和は、コアPCEで測ったインフレ率を「1%~2%」というレンジに収めるように一貫して運営されてきた可能性があるのだ。

 

ところで、ジャステン・ウォルファーズ(Justin Wolfers)がこちらの記事で(2013年)第2四半期のPCEデフレーターの変化率がマイナスに転じた(デフレを記録した)事実を指摘している。2%のインフレ目標の存在を考えると、Fedがどうしてかような事態を放っておくのか不思議でならない、とはウォルファーズの弁だ。Fedによるインフレ目標は、実のところ、2%を上限値とする幅のあるインフレ目標だからというのが、ウォルファーズの疑問に対する答えであるように私には思える。

・・・というような指摘は、(私だけの論というわけではなく)実はライアン・アヴェント(Ryan Avent)がかねてから何度も繰り返している。昨年(2012年)の4月にアヴェントは次のように語っている

Fedによる2つ目の過ちは、「2%」をターゲットではなく上限(シーリング)として扱っているところにある。・・・(略)・・・Fedが好んで参照する物価指数――コアPCE――で測ったインフレ率は、これまでずっと2%を下回ったまま。(2012年)2月のコアPCEは、前年同月比でプラス1.9%の上昇を記録し、年率に換算すると1.6%の上昇という結果だった。また、予想インフレ率は2月以降低下傾向にある。

Fedが2%を上限として扱っていることを裏付ける、さらに有力な証拠となりそうなのは、Fedが発表している今後3年間にわたるインフレ見通し(pdf)の中で(1~3年先のインフレ率の)一番高い予測値が2%になっていることだろう。Fedがインフレ目標に対して対称的なアプローチで臨むつもりだとすれば――バーナンキ議長は昨日そう語ったわけだが――、2%は(今後3年間にわたるインフレの予測)レンジの一番高い値ではなく、中央値となってしかるべきはずだろう。このような状況(Fedが2%を上限値として扱っているらしいこと)は、のっぴきならないことである。それというのも、Fedの予測では、今後3年間のうちに、失業率が(Fedが推計する)自然失業率のレンジ(5.2%~6.0%)にまで低下しそうにないからだ。失業率が自然失業率に最も近づくのは2014年と見込まれているが、(2014年の失業率の)予測値中の最小の値でも、Fedが推計する自然失業率のレンジの上限値(6.0%)を0.7%ポイント上回っているのである。

Fedは、一連の経済学者――ポール・クルーグマン(Paul Krugman)やケネス・ロゴフ(Kenneth Rogoff)、グレッグ・マンキュー(Greg Mankiw) 、そして・・・ベン・バーナンキ(Ben Bernanke)――から勧告された目標の達成に失敗しているだけではない。自らが掲げた目標の達成にも失敗しているのである。それも一貫して。

Fedが正式にインフレ目標を採用したことで、一体何が変わったのだろうか? 一層の混乱がもたらされたことを除けば、何も変わってはいない。いや、先日のノー・テイパー(量的緩和の縮小延期)の大失敗がいい例だが、Fedは混乱を招くのがますます得意になってきているように感じられるくらいだ。このような状況は終わりにしなければならない。金融政策のスタンスが経済情勢の変化に応じて変更されるにしても、その変更が予測可能かつ系統的なかたちで行われるように工夫する必要がある。Fedの現状の金融政策はそうなってはいないのだ。

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●David Beckworth, “The Latest Central Bank Fad: Asymmetric Inflation Targeting”(Macro Musings Blog, January 26, 2016)


Fedは2%のインフレ目標を採用しているわけだが、2%を上限値と見なしているのではないか。インフレ率が2%を上回るのはどうにかして避けようとしている一方で、インフレ率が2%を下回るのはよしとしているのではないか。これまでに何度もそのように指摘してきたわけだが(例えば、こちらこちらを参照)、この件(インフレ目標に持ち込まれた非対称性)に関しては、Fedよりもずっとふてぶてしい輩がいるようだ。そいつの名は、ECB(欧州中央銀行)

ECBは極めて困難な立場に追いやられている。過去4年間にわたって、政策目標――ヘッドラインインフレ率(総合インフレ率)を「2%近辺かつ2%を上回らない高さ」に誘導する――を達成できずにいるのだ。その結果、政策目標の信頼性は損なわれてしまった。インフレ目標に対する信頼が一旦損なわれてしまうと、世の人々にインフレ目標を再び信頼してもらうのは(世人を説得して信頼の回復を図るのは)非常に難しくなってしまう。

去る火曜日に行われたドラギ総裁の講演は、実に感動的なものだった。政策目標がなかなか達成できずにいる。そこで、できるだけのことをやってみた。・・・が、またもやうまくいかない。そのように語るドラギ総裁。政策目標の達成に賭ける総裁の思いの強さを疑う気はさらさらないが、政策理事会の議事要旨(2015年12月3日分)を読むと、メンバー全員が総裁と同じような思いで政策目標の達成を志しているわけではないことが伝わってくる。・・・(略)・・・ユーロ圏が再びデフレに逆戻りしない限りは、量的緩和の規模拡大に同意する気はないと語るメンバーもいる。「2%ではなく、ゼロ%のインフレ率をこそ目標とすべき」というのが、そのメンバーの発言に秘められたメッセージということになろう。腰を上げるのは、物価が下落してから(デフレになってから)というわけなのだから。

〔中略〕

そのメンバーは、筆者が長年薄々感じていた思い(これまでずっと確信を持てないでいた思い)を裏付けてくれたわけである。その思いというのは、政策理事会の面々は、インフレ率が目標(である2%)を上回るとそのことを気にかける(懸念する)一方で、目標を下回っていてもそのことを大して気にもかけないのではないか、というものだ。そういう意味で、(ECBが掲げる)インフレ目標は非対称的なものなのではないか。・・・(略)・・・ドイツの経済エリート層の間では、非公式のインフレ目標が共有されているようである。「インフレ率を0~2%の範囲に収める」というのがその中身。私なりにはそう見立てているのだが、仮にその見立てが正しくて、「インフレ率を0~2%の範囲に収める」のが目標となっているのだとすると、現状では何らかの行動に打って出る必要などない(ECBは現状維持を貫いて構わない)ということになろう。

〔中略〕

ECBは、組織全体として、政策目標の達成に向けて中途半端にしかコミットしていないというのが実態と言えそうだ。ECBが政策目標をいつまでも達成できずにいるのは、それも理由の一つだろう。

私が今すぐにやらねばならないことは一つだけ。少し前のエントリーで登場願った(的を模した)インフレ目標チャート(「教科書的な(本来あるべき)インフレ目標」と「インフレ目標の実態【Fed版】」)に、もう一つ的(「インフレ目標の実態【ECB版】」)を新たに書き加えねばなるまい。どうやら、「非対称的なインフレ目標」が中央銀行(少なくとも、世界を代表する中央銀行)の間で新たなブームとなりつつあるようだ。


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