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ニック・ロウ 「貨幣、電話、ハロウィン ~はじめの一歩が踏み出されるまで~」(2017年11月1日)

●Nick Rowe, “How can Halloween get started?”(Worthwhile Canadian Initiative, November 01, 2017)


(ハロウィンには)一日遅れてしまったが、構うまい。

「貨幣」の誕生に向けていかにしてはじめの一歩が踏み出されるかを理解するのは造作ない。A氏はビスケットが欲しいが手元にはジャムしかない。B氏はジャムが欲しいが手元にはタバコしかない。A氏は非喫煙者でありタバコなんて欲しくもないが、とりあえずB氏と交渉してジャムと引き換えにタバコを手に入れる。タバコとビスケットの交換に応じてくれそうな喫煙者を探せばいいと考えたわけだ。すると格好の相手を見つけた。C氏だ。A氏はC氏にタバコを差し出してそれと引き換えにビスケットを手に入れる。非喫煙者のA氏は「欲望の二重の一致」問題を乗り越える術としてタバコを「交換手段」――「貨幣」――として転用した(pdf)わけだ。かようにしてはじめの一歩が踏み出されればその後は雪だるま式に勢いがつく可能性がある。何かしらの財と引き換えにタバコを受け取る人間が一人いる(A氏)となると、非喫煙者の中から自分も(手持ちの品を差し出すのと引き換えに)タバコを受け取ってもいいと考える者が相次いで出てくる可能性があり――A氏がタバコを受け取ってくれる(のと引き換えに財を差し出してくれる)からね――、そうなるとタバコの流動性は高まることになる。「貨幣」らしさが増すことになるわけだ。

「電話」の普及に向けていかにしてはじめの一歩が踏み出されるかを理解するのは(「貨幣」の誕生に向けていかにしてはじめの一歩が踏み出されるかを理解するのに比べると)幾分骨が折れる。誰よりも先んじていの一番に電話を買うなんてのは馬鹿げている。だって電話をかける相手がいないんだから。はじめの一歩が踏み出されるためには少なくとも二人が手を組んで一緒に電話を(それぞれ一台ずつ)買う必要がある。そうすればお互いに電話を掛け合うことができる。2人ないしはそれ以上のメンバーを抱える組織で仲間うちで連絡を取り合うために人数分だけ電話をまとめ買いするという手もあるが、Azuthによるとはじめの一歩はまさしくそのようにして踏み出されたとのことだ。

(Azuth: 電話の普及に向けたはじめの一歩はB2B(企業間取引)を通じて踏み出されました。まずは政府機関や大企業なんかが(電話の)売り込み先になったんです。一般家庭に電話が広まったのはその後です。)

ハロウィンがやってくるとちびっ子たちが「トリック・オア・トリート」と叫びながらお菓子をねだりに近所の家を訪ね回るわけだが、そのような慣わしの定着に向けていかにしてはじめの一歩が踏み出されるかを理解するのは先の二つ(貨幣と電話)のケースに比べるとずっと厄介だ。大人たちが家にキャンディを用意していないようであればちびっ子たちは「トリック・オア・トリート」と叫びながら近所を歩いて回ろうとはしないだろう。その一方で、ちびっ子たちが「トリック・オア・トリート」と叫びながら近所を歩いて回らなければ大人たちは家にキャンディを用意しようとはしないだろう。どちらが先か? 鶏が先か、卵が先か。キャンディが先か、ちびっ子が先か。さらには、行事として意味をなすには参加するちびっこの数も大人の数もそれなりの規模じゃないといけない。オーストラリアのケースになるが、Jameson Tuckerがいかにしてはじめの一歩が踏み出されたかについて述懐してくれている。

(Jameson Tucker: この件については私にも答えられます。1980年代に家族揃ってカナダからシドニーに引っ越したんですが、シドニーでもハロウィンがどういうものかについてはテレビなんかを通じてそこら中で知られていました。そこで学校に通う子供を持つ親たちで相談して「私たちの間でも『トリック・オア・トリート』をはじめてみましょう」ということになったんです。)

教訓をまとめるとしよう。世の中の社会制度についてくまなく説明しようとする気なら、その制度に参与することに伴って一人ひとりがいかなる利益を得るかを説明するだけでは足りない(その制度に参与することで一人ひとりが得をするかどうかというのとその制度は全体の利益になるかどうかというのとは分けて考えねばならない。というのも、個人にとっては合理的でも全体にとっては好ましからぬ帰結を伴う「囚人のジレンマ」型の制度も存在する可能性があるからである)。さらには、はじめの一歩が踏み出された後にいかにして制度のさらなる拡張が引き起こされるかを説明する(すなわち、ネットワーク効果を説明する)だけでもまだ足りない。いかにしてはじめの一歩が踏み出されるかについても目を向ける必要があるのだ。「良い制度」の中にははじめの一歩が踏み出されにくいものがあるかもしれない一方で、「悪い制度」の中にははじめの一歩が易々と踏み出されるものがあるかもしれないのだ。

(タバコが貨幣に転じるはじめの一歩を理解するのはビットコインが流通するはじめの一歩を理解するのに比べると簡単だ。なぜならば、タバコはたとえ貨幣として転用されなくとも少なくとも喫煙者にとってはそれなりの価値を持っているからだ)


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