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ピーター・ターチン「公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か」(2020年3月23日)

[Peter Turchin, “How Effective Are Public Health Measures in Stopping Covid-19?“, Cliodynamica, March 23, 2020]

読者の多くが知っているように、私はウィーンにあるComplexity Science Hub (CSH)で研究グループのリーダーの地位を引き受けることになった(同時に引き続きコネチカット大学の教授でもあるので、今私はコネチカットにいる)。

1週間前、オーストリア政府はCSHにCOVID-19の流行に対応するより良い政策を策定する助けになるような研究を行うように依頼した。それに、私は政府が実際に科学者に手助けを求める(そして、そのような手助けをすぐに行うことができる研究機関をもっている)ことはとても素晴らしいことに思える。いずれにせよ、CSHは一旦他の研究をやめて、全ての研究能力を我々の社会が直面するコロナ危機に対処することに用いることにした。

結果として、先週、私は次のような問いに関するワーキンググループのために働いていた。つまり、いろいろな公衆衛生政策がCOVID-19感染を遅らせたり、さらに止めたりするのにどの程度役に立つのだろうか、という問いだ。コロナを扱う上で、中国が用いた非常に強権的な手法からイギリスの(すくなくとも初めは)放任的なアプローチまで、いろいろな国がかなり異なった政策を用いることを決定している。特に興味があるのはデンマークとスウェーデンのようなよく似ているが全く違ったCOVIDに関する政策を採用したの二国間比較だ。

というわけで、先週の私の研究のゴールは、各国政府がCOVID-19の拡大を遅らせ、食い止めるために行った様々な政策の効果を推定することだ。この問いを答える直接の方法は、感染症の拡大率(と「アクティブなケース」、つまりいま感染しているとわかっている人の数で測った感染症の深刻さ)を追跡して、いろいろな介入がこの拡大率にどのように影響するかをみることだ。例えば、「基本増殖率」(R0)、つまり1人の患者から感染する症例の平均的な数を用いることができるだろう。政策の目的は増殖率を1以下にして感染症を消滅させることだ。

しかし、このような直接的な手法には次のような問題がありうる。つまり、多くの(少なくとも50%)のコロナウイルス感染者は「無症状」である、つまり本人も病気であることに気づかないということだ。よって、そのような人は感染症の統計に含まれない。さらに都合の悪いことに、感染が確定している個人の割合は時間と共に増加する傾向がある、というのは人々がより感染症を意識するようになったり、政府が無症状の個人に対する大規模な検査をしようとするかもしれないからだ。病気の検出率の変化は感染症の増加速度の変化を隠してしまうだろう。

では何ができるだろうか。私の考えでは、病気の増加(そして最終的な減少)と実際の感染者の数がどのように公的な統計に反映されるかの二つをモデル化しなくてはいけないということだ。プロセスの良いモデルがあれば(そして感染症に関しては、実際にそのようなモデルは存在する)、メカニズムに基づいたモデルによるデータ分析は、純粋なデータ駆動のアプローチよりもうまくいくだろう。というのも、モデルに既に知られていることを組み込むことによって、貴重なデータから効率的にまだわからないことを推測することができるからだ。

技術的なことに関心がある向きには、正確に私が何をしたかのドキュメントを投稿してある(GitHub:pturchin/Covid19)。しかしこのブログでは、私は一つの例を使って手法を技術的な詳細に踏み込まずに解説する。それは(そうあって欲しいと望んでいるのだが)読者だれにでも理解できるものであるはずだ(もし何かわからないことがあったら、コメント欄で聞いて欲しい)。

重要な但書:これらの結果はまだまだ未完成で、慎重に解釈されるべきだ。私は新しいアイディアを発信して、その問題点を後々ではなくて早めに見つけるためにブログをよく使うのだ。そしてもちろん、私はどんな組織(CSHも含め)や政府を代表して発言しているわけではない。

韓国のCOVID-19感染を例題として用いよう。まず、データをみよう。下の図は病気が広まっている様子を「アクティブケース」(感染しているとわかっている人)の数で示している。

次に、モデルをこのデータに当てはめてみて、感染症自体が持つ機構を明確にできるかみてみよう。標準的な感染症のモデルであるSIRD(このモデルが追いかける変数、未感染者:Susceptible、感染者:Infected、回復した症例:Recovered、死亡した症例:Deadの頭文字)を改変したモデルを用いる。感染症をさまざまな角度からみたときの結果をよく近似するかどうか確かめたいのだ。次の一連の図はモデルが成功しているかを示している。点は実際のデータで、曲線はモデルの予測を表している。

明らかなように、モデルはとても良いものだ。これによって、モデルが感染症の基本的なメカニズムを捉えていることが自信を持って言える。これを達成するために必要なのは、基本的なSIRDモデルにたった二つの特徴を付け加えるだけで良い。

モデルの鍵となるパラメーターは感染率だ。感染率は病気が感染者から未感染者へどの程度の速度で広がるかを決める。もう一つ重要なパラメーターは検出率だ。この二つのパラメーターは感染症が広がる過程で変化する。よく知られているように、韓国政府は感染症に直面していることを知ると、大規模な検査の拡大を行い、また強力な隔離手段を取った。こういった政策は検出率の増加と感染率の減少をもたらしたに違いない。これらの変化をモデルに組み込むことによって、いつどのようにこれらの値が変化したか推測することができる。以下が私の得た結果だ。

図(a)は感染率(beta)が時間と共にどのように変化したか示したものだ。最初は感染率がとても高く、0.4/日の指数的増加を示している。別の言い方をすると、毎日感染者の数が40%増加した。この値は25日目(2月の中頃)低下し始めたが、最低の値には50日後(3月初旬)になって近づいた。

図(b)は検出率を示している。30日後までは0と推定されている。これは、初めのうちからかなりの間、感染症は「レーダーに検出できないまま」広がっていったことを示唆している。だんだんと多くの人が病気になっていったが、社会は全体としてはまだそれに気付いていなかった。

韓国政府はCOVID-19の検査を2月初旬から始め、その規模は2月20日以降大幅に拡大された。これはモデルが予測する検出率の増加が開始した30日後とよく一致している。最終的には検出率は70%近くに達した。これは無症状の人々への徹底した検査が成功していることを示している。

つまり全体のところ、この韓国のデータの分析は、感染症の性質について我々が知っていることから考えると、とても有益である。技術的な文書の中で議論するいくつかの留意点があるが、モデルはとてもよく当てはまっていて、韓国政府の取った政策の効果を数値的に推測することを可能にしている。政策は大変効果的であった。将来の投稿では、私が中国について行った分析について報告したい。中国での状況はより複雑で、韓国での感染症の例よりモデルは結果と合致しない。しかし、それでもとても興味深く示唆的な洞察を得ることができる。お待ちいただきたい。


追記 (2020年3月23日21:00)技術的詳細とRスクリプトを私のGithubディレクトリに置いた。


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