タイラー・コーエン「ハーバードでのシグナリングと資質認定」(2020年7月7日)

[Tyler Cowen, “Signaling vs. certification at Harvard,” Marginal Revolution, July 7, 2020]

ハーバードは秋学期の教育をオンラインだけでやる予定だ(一部の学生は寮生活をする).それでも,学費は全額請求するそうだ.この件を論評している人たちの多くは,教育のシグナリング理論を支持する証拠がここからもたらされると主張している.

でも,そうとも言えない.わりと文字どおりにとると,シグナリング理論とはこういう考えだ:「教育とは突破が非常に難しいハードルのことであり,ハーバードをぶじ卒業できたなら,その人はほんとにすごく賢くて勤勉な人物にちがいない.」 カリフォルニア工科大学ならそうかしれない.でも,スタンフォードやハーバードなど,上位大学の多くは悪くはない成績を十分にとればかなりかんたんに卒業できるようになっている.

ハーバードで難しいのは,入学する段階だ.選別して入学を認めることで,ハーバードはその人の資質を認定する(ただし,「例の 43%」すなわち遺産相続者・スポーツ選手など〔で学力を求められない人たち〕の一員でなければの話だ……けど,その人たちもハーバードの学生にはちがいない).

じゃあ,どうして直接に資質の認定だけをやるサービスがないんだろう? ハーバードの入学試験の担当部署とそっくり同じことをすごく安上がりにやれそうなものじゃないか.

もしかすると,論理的な結論として,ハーバードの「人脈/交際」サービスと資質認定サービスの両方とも強力な構成要素なのかもしれない.ハーバードに資質を認定されながらも,無人島で生活している人や感染症にかかっている人だと,その資質認定も値打ちがずっと下がってしまう.だから,この2つのサービスを分離して資質認定だけをバラ売りしようとしても,関連する人脈抜きでは難しい.また,人脈サービスだけのバラ売りも,それほど価値はない.ハーバードの卒業生たちは,ドライクリーニングの従業員と対人的なつながりがあるけれど,そこから従業員に得るものがあるかといえば,そんなことはない.

この話にシグナリングを登場させるには,けっこうな仕事が必要だ.シグナリングの説だと,実際にトーナメントをやらなければ誰が高い質の持ち主なのか見分けられない.そして,これは資質認定の話とおおよそ逆になっている.

また,〔オンライン授業のみというかたちで〕ハーバードのサービスが制限されるのは1年(あるいはもっと短期)にかぎられるだろうって点にも留意しよう.大半の学生は,「本物のハーバード」を3年かそこら経験できる――そこに彼らが値打ちを見出しているとして,だけど.それに,学生たちは,異なる時点のあいだでの代替をやって,残り3年間で大学での人付き合いを増やす手もある.ちょうど,〔チケットを買っても〕NBA の本当にすごい試合を最初のクォーターは観戦できないよ,と言われた場合と同じだ.たしかにそれだと〔チケット〕値打ちは下がるけれど,それでも高価な座席を購入するのにやぶさかでない人たちは十分にいるだろう.どっちにしろ,試合を3クォーター以上観戦しない観客が大半だ.

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