タイラー・コーエン 「空中分解した飛行機から落下して生還する術」(2010年2月1日)/「幸運の子」(2010年11月2日)

●Tyler Cowen, “How to fall six miles and survive”(Marginal Revolution, February 1, 2010)


実に興味をそそられる記事だ。一部を引用しておこう。

あなたが搭乗している飛行機が上空6マイル(およそ9,600メートル)の高さを飛行している最中に空中分解したとしよう。上空6マイルの高さから落下して生還できる確率はごくわずかではあるが、あなたが置かれている状況を細かく分析したところで失うものは何もない。
上空6マイルの高さにある飛行機から落下する術には二通りある。まず一つ目は、「フリーフォール」だ。身体を守る保護具だったり、落下スピードを緩める助けをしてくれる装置だったりを一切まとわずに、地面に向かって急降下するわけだ。二つ目は、「残骸ライダー」になることだ。「残骸ライダー」というのは、マサチューセッツを拠点とする在野の歴史家であるジミ・ハミルトン(Jim Hamilton)氏による造語だ(ハミルトン氏は、Free Fall Research Pageという名のウェブサイトを立ち上げて、飛行機から落下した人々の事例を集められるだけ集めて整理したデータベースを公開している)。「残骸ライダー」には、一つの強みがある。空中で分解した飛行機の「残骸」に体を覆われているのだ。
セルビア人であるヴェスナ・ヴロヴィッチ(Vesna Vulovic)も「残骸ライダー」の一人だ。彼女は客室乗務員としてマクドネル・ダグラス DC-9-32型機に乗っていたが、その飛行機がチェコスロバキアの上空を飛行中に爆発した。1972年のことだ。ヴロヴィッチは、33,000フィート(およそ10,160メートル)の高さから落下することになったが、自分が座っていたシート(座席)やら配膳カートやら機体の一部やら同僚の一人やらに体を覆われながら地面に着陸した。着陸した地点が雪に覆われた斜面ということもあって、しばらくはその斜面を滑り落ちることになったが、やがて静止した。重傷を負いはしたものの、一命は取り留めたのだった。

ハミルトン氏が収集しているデータによると、「フリーフォール」で落下するよりも、残骸という保護具もどきに体を覆われて落下する方が、生還できやすいようだ。1940年代以降だと、「残骸ライダー」として落下して一命を取り留めた人の数は、31人。その一方で、「フリーフォール」で落下して一命を取り留めた人の数は、わずか13人。「フリーフォール」で落下して一命を取り留めるのは、狭き門なのだ。その狭き門を潜り抜けた一人に、長年にわたって続いている漫画のRipley’s Believe It or Not!(『リプレーの世界奇談集』)でスパースターとして描かれているアラン・マギー(Alan Magee)がいる。マギーは、ニュージャージー州出身。空軍兵として第二次世界大戦に参加したが、1943年にフランスの上空を飛行中にB-17爆撃機の外に投げ出された。マギーの体験は少し前にテレビ番組のMythBusters(『怪しい伝説』)でも取り上げられたが、彼は22,000フィート(およそ6,700メートル)の高さから地上にある鉄道駅へと突っ込んだのだった。マギーは駅の床に倒れているところをドイツ軍によって発見されたが、ドイツ軍の面々はマギーが息をしていることに驚いていたという。

機体の一部(「残骸」)に身を守られているか、それとも「フリーフォール」で落下するかという違いにも増して気にかけるべきは、終端速度(落下時の最高速度)だ。重力によって地面に引っ張られるために、落下速度は次第に増すことになる。しかしながら、落下速度が増すのに伴って、空気抵抗も増す。下に引っ張る力と上向きに働く力が釣り合うところで加速は止(や)む。落下速度の限界(上限)に達するわけだ。

地面(だとかそのあたり)に叩きつけられるスピードが “たった” 時速120マイル(およそ時速193キロ)で済んでくれる場合もあるらしい。記事では、別の助言も与えられている。曰く、頭から地面に落下するなかれ!

件の記事は、The Browser経由で知った。感謝。

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●Tyler Cowen, “Anything but the election”(Marginal Revolution, November 2, 2010)


生後15か月の赤ん坊(女児)がパリにあるアパートの7階から落下したものの、ほぼ無傷で助かった。カフェの軒先テント(オーニング)に落下して跳ね返った後、通行人が両腕でキャッチしたという。

警察の発表によると、4歳の姉と一緒に二人だけで遊んでいた最中に、7階にある部屋の窓から誤って落下してしまったという。

ル・パリジャン〔フランスの日刊紙〕が伝えるところでは、若い男性(A氏)が異変に気付き、一緒に歩いていた父親に「赤ん坊が窓から落ちちゃいそうだよ」と告げたという。すると、その父親(A氏の父親)がすかさず駆け寄り、カフェの軒先テントに落下して跳ね返った赤ん坊を両腕を伸ばして無事にキャッチしたという。

・・・(略)・・・アパートの1階部分に店を構えるカフェの店主は、軒先テントを折りたたまずにいたのは思いがけない幸運だったと語る。

「普段であれば、あの時間帯は軒先テントを折りたたんでるんですよ。通行人がタバコの吸殻を投げ捨てて火事になるのを防ぐために」。

全文はこちら。どうやら赤ん坊の両親は家を留守にしていたらしい。

ついでに、「運」がテーマのモンテーニュ(Michel de Montaigne)の短いエッセイはこちら。モンテーニュの『エセー』(『随想録』)には、「運」(fortune)っていう語が350回以上も出てくるみたいだね。

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