マーク・ソーマ 「緊縮論者の真の狙いとは?」(2012年6月1日)

クルーグマンの見立てによると、緊縮論者の真の狙いは「政府の図体を小さくする」ことにあるとのこと。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/22524860

緊縮論者の真の狙いは何なのだろうか? クルーグマンの見立てによると、その答えは以下の通り。

The Austerity Agenda” by Paul Krugman, Commentary, NYTimes:

「景気が落ち込んでいる時(スランプ期)ではなく活況を呈している時(ブーム期)こそが、緊縮に乗り出すべき好機なのだ」。ケインズがそう言い放ったのが75年前。そして、彼は正しかった。・・・(略)・・・景気がガチガチに冷え込んでいる最中に支出を切り詰めるというのは、自滅的な戦略なのだ。・・・(略)・・・すなわち、景気をさらに冷え込ませるだけなのだ。

そうだというのに、イギリス政府はやるべきじゃないことをやっている。どうしてなんだろう? ・・・(略)・・・キャメロン政権の緊縮路線を支持している何人かの論者に疑問をぶつけてみたが、・・・(略)・・・誰も彼もが同じようなパターンの返答を寄こしてきた。ヘンテコな比喩を持ち出してきて、最終的に本音(真の動機)をさらけ出して終わったのだ。

ヘンテコな比喩というのは、「国の借金」を「家計の借金」になぞらえる例のアレだ――おそらく何度となく耳にしたことがあることだろう――。借金を抱え過ぎてしまった家計は、借金を少しでも返済するために出費を抑えなければならない。イギリスも・・・(略)・・・借金を抱え過ぎてしまっており――それはその通り。ただし、イギリスでは、公(政府)が負っている債務よりも民が負っている債務の方が問題だけれど――、借金を抱え過ぎてしまった家計と同じように、出費を抑えるべきなんじゃなかろうか? この比喩のどこに問題があります?・・・というのが彼ら(緊縮論者)の言い分だ。・・・(略)・・・

民間部門が借金を返そうと必死になっている時には、政府は真逆のことをやるべきなのだ。民間部門がお金を使って何かを買う気がなかったりお金を使う余裕がなかったりする時には、政府がお金を使う(政府支出を増やす)べきなのだ。歳出と歳入を一致させる(財政収支を均衡させる)つもりなら、景気が回復してからにしましょうよ。今はその時じゃない。 「景気が落ち込んでいる時(スランプ期)ではなく活況を呈している時(ブーム期)こそが、緊縮に乗り出すべき好機なのだ」。

これまでの話は、別に目新しくもなんともない。・・・(略)・・・緊縮論者に「その比喩っておかしいですよ」と指摘すると、大抵決まって次のような本音が漏らされるに至る。「そうは言っても、政府の図体(ずうたい)を小さくしなくちゃいけませんし」。・・・(略)・・・

イギリスにおける緊縮論者の真の狙いは、借金だとか財政赤字だとかとは別のところにあるのだ。・・・(略)・・・世間が財政赤字にパニックになっているのに付け込んで、 社会保障制度を解体しようと試みているのだ。言うまでもなく、アメリカでも事情はまったく同じだ。

イギリスの保守派のために公平を期しておくと、彼らはアメリカの保守派ほどには荒々しくない。・・・(略)・・・ お金持ちを利して貧乏人を罰する気はそこまで無さそうだからね。とは言え、財政政策が同じ方向(緊縮)を向いていて、緊縮を求める声にごまかしが潜んでいる点は変わりがない。

緊縮策が景気回復につながらなかったことが火を見るよりも明らかになったとしたら、「プランB」が用意されたりするだろうか? たぶんそうなるかもしれないね。でも、「プランB」が用意されたとしても、大差はないと思う。 というのも、これまでを振り返ると、緊縮論者には景気を回復させる気なんて全然なかったんだからね。危機を解決する気なんてなくて、(政府の図体を小さくするために)むしろ危機を利用しようとしてたんだからね。それは今も変わらないのだ。


〔原文:“Paul Krugman:The Austerity Agenda”(Economist’s View, June 01, 2012)〕

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