ピーター・ターチン「エリート志望者ドナルド・トランプ――エリート過剰生産の落とし子」(2016年4月19日)

Donald Trump as an Elite Aspirant
April 19, 2016 by Peter Turchin

 昨日、ネッド・レスニコフが、先週の私へのインタビューに基づいた「近い将来の破滅について古代史が語ること」という記事を公開した。とてもいい記事だが、私が話したいくつかのことについて彼の文章には載っておらず、その点についてブログで膨らませようと思った。

 これらは全て構造的人口動態(structural-demographic, SD)理論に基づいている。我々自身のものも含む複雑な社会が、なぜ定期的に社会的政治的な不安定性の波を経験するのかを理解するうえで、これこそが現在使える最良の理論だ。この理論に最初に触れる読者は、SD理論を説明したいくつかのブログシリーズを集めた人気記事とシリーズのページをチェックしてほしい。

 SD理論によれば不安定性の波はいくつかの力の相互作用がもたらすもので、そのうち最も重要な2つが「大衆の生活苦」と「エリートの過剰生産」だ。2016年の米大統領選は、この理論の働き方についての完全な実例を提供する。ここでは特にドナルド・トランプの選挙戦を見るとしよう。

 SD理論における「エリート志望者」とは、支配者階級の一部になることを狙っている政治的野心を持つ個人である。それ自体は間違ったことではない。決まった数の権力の座を巡って多すぎるエリート志望者が相争うような、エリート過剰生産の状態にない限りは。

 米国におけるエリート志望者の重要な供給源の1つは(2つ目については別のところで取り上げた)、多くの富を獲得し、その一部を例えば米大統領、上院議員、あるいは重要な州の知事といった高い公職と結び付いた権力と権威に変換しようと狙っている人々だ。問題は、1983年から2007年までの間にアメリカの「デカミリオネア」(自身の財産が1000万ドルを超える個人)の数が6万人から46万人まで増加し、さらに「センチミリオネア」[訳注:同1億ドル超]やビリオネア[訳注:10億ドル超]も同様に増えていることだ。デカミリオネア(あるいはそれ以上)の全員が公職に立候補しようとしているわけではない。それでもなお、今や30年前に比べて7倍か8倍の政治的野心を持つデカミリオネアがおり、一方で政治的な地位の供給は変わっていない。今でも30年前と同様、大統領は1人、上院議員は100人で、下院議員は435人だ。

 これはつまり、ますます多くの政治的野心を持つ金持ちが、公職を目指しながらもそのクエストに挫折することを意味する。そして彼らの多くはその事実を甘受しようとはしない。結果、SD理論の枠組みに従うのなら、それはエリート内競争と、エリート内の分断及び衝突を増やす。

 今年[訳注:2016年]の選挙において、我々はこれらの傾向すべてを目の当たりにしている。エリート志望者の定義にトランプがフィットする様は、まるで手袋のようだ。加えて彼は当初、明らかに規則に従って行動しようとしていたが、彼の野心は既存の共和党エリートによって妨げられた(この件についてニューヨークタイムズの記事があったのだが、見つけられそうにない)。

 共和党は2010年以来、まずは茶会党運動の勃興によって分断された。彼らは今やバラバラになっている。今やそこには3つの党派があり、それぞれが自分たちの候補者を抱えている。主流派のマルコ・ルビオ、茶会党のテッド・クルーズ、そして造反者たるトランプの運動だ。

 トランプはこの分野[訳注:成功したビジネスパーソン]におけるエリート志望者の、最もよく知られた唯一の代表的存在だ。きょうのロイターの記事はこう述べている

彼は成功したビジネスマンで、政治の世界へと初めて進出した。彼はメキシコとの南方国境を警備し、国際的な貿易取引を投げ捨てたいと望んでいる。そしてドナルド・トランプのように、彼は共和党のエスタブリッシュメントにとっての悪夢になりたいと思っている。彼の名はポール・ネーレン。米下院議長であるポール・ライアンの共和党内のライバルとして、その地元ウィスコンシンで浮上してきた人物だ。

 エリート過剰生産は2016年の選挙を見るうえでとても役立つレンズを我々に提供してくれる。だがエリートの過剰生産は物語の一部にすぎない。なぜトランプがこれほど成功しているかを理解するために、我々は苦境にある大衆の生活に何が起きているかを見る必要がある(その点については明日、投稿する)。

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