マーク・ソーマ 「テロを生んでいるのは『貧困』ではなく『自由(市民的権利)の抑圧』」(2007年7月5日)

貧困がテロの温床(貧困がテロを生んでいる)という通念を裏付ける確固たる証拠は、驚くほど少ないようだ。
画像の出典:https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=23272954

過去にも取り上げたことがある〔拙訳はこちら〕が、何度も繰り返し強調しておくだけの価値がある。テロを引き起こしているのは、経済的な要因ではないのだ。

Princeton Economist Says Lack of Civil Liberties, Not Poverty, Breeds Terrorism” by David Wessel, Capital, WSJ:

イギリスで起きた自動車爆弾テロ未遂事件で捕まった8人のうち7人が医師だったという報せを聞いても、プリンストン大学の経済学者であるアラン・クルーガー(Alan Krueger)はショックを受けなかった。驚きさえしなかった。

クルーガーは語る。「この種のテロ事件が起きて犯人の素性が明らかになるたびに、テロリストは絶望的なほど貧しいがゆえに犯行に及ぶのだという神話に終止符が打たれてもよさそうなものです。しかしながら、思い違いはなくならないのです」。

2001年9月11日の同時多発テロ事件が起きてから1年も経っていない段階で、ブッシュ大統領は次のように述べている。「我々は、貧困と戦う。希望こそがテロへの答えだからだ」。・・・(略)・・・世界銀行の前総裁であるジェームズ・ウォルフェンソン(James Wolfensohn)も次のように述べている。「貧困の問題をどうにかしない限り、テロとの戦いには勝てないだろう。・・・(略)・・・」。

もっともらしい言い分に思える。心に訴えかけてくるところもある。貧困や無知に打ち勝つという崇高な目標を追求することにゴーサインを出してくれるからだ。しかしながら、系統的な――可能な限り綿密な――研究によると、貧困がテロの温床(貧困がテロを生んでいる)というのは思い違いらしいのだ。

クルーガーは、2006年にLSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)に招かれて行った講演で次のように述べている。「全般的な傾向として言うと、テロリストたちは、彼らの出身国の同年齢層の典型的な人物と比べると、教育水準も高いし、生まれ育った家庭も裕福な傾向にある」。

・・・(中略)・・・

「貧しくて無学な人たちの方が裕福で高い教育を受けている同国人よりも、テロを支持しがちだったりテロ組織に参加しがちだったりするかというと、そのことを裏付ける証拠はない」とクルーガー。9月11日に起きた同時多発テロ事件の実行犯の多くは、豊かな国であるサウジアラビア出身で、比較的裕福だった。

・・・(中略)・・・

とは言え、完璧なデータによって裏付けられているとは言い難い。テロリストたちに事細かなアンケートに答えてもらったわけではないのだ。裕福で高い教育を受けている人物がテロリストになろうと思い立ったのは、自分自身の境遇のゆえではなく、同じ国で暮らしている貧しい人たちの境遇に何か思うところがあったせいかもしれない。ハーバード大学でテロについて専門的に研究しているジェシカ・スターン(Jessica Stern)がパキスタンのテロリストたちに行った聞き取り調査の結果によると、テロリストの勧誘をするなら国内の最貧困地域が狙い目だという。とりわけ、最貧困地域に暮らしていて、ムスリムが西洋に侮辱されていると感じている人物が仲間になりやすいという。クルーガーを筆頭とする面々は、何かを証明するに足るだけの十分な証拠を揃えているとは言えないというのがスターンの意見だ。「テロに関する厳密で大規模な研究に着手されてからまだ間もないのです」とスターンは語る。

しかしながら、貧困がテロの温床という通念を裏付ける確固たる証拠が驚くほど少ないのも確かだ。・・・(略)・・・ 9/11委員会(同時多発テロに関する独立調査委員会) は、次のように言い切っている。「貧困は、テロの原因ではない」。

それでは、一体何が原因なのだろうか? クルーガーによると、市民の自由と権利(政治的権利)が抑圧されているのが原因ではないかという。「不平分子が抗議をしようにも(集会・結社の自由が制限されているために)非暴力的な手段が使えないようであれば、テロに走る可能性が高まるようだ」 。・・・(略)・・・

〔原文:““Lack of Civil Liberties, Not Poverty, Breeds Terrorism””(Economist’s View, July 05, 2007)〕

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