この一連の記事の前回で、経済力と死傷率の両方の仮説を同じ計算モデルの中で組み合わせる方法について示すことを約束した。昨日、(いくつかの官僚的な問題を解決するのに数週間かかったが)ようやくSocArxivで両方の仮説を同じ計算モデルで表現した私の査読前論文が公開されたので、読者の皆にも紹介したい。
ウクライナ戦争における人的損耗戦モデルによる予測の実証的検証
さらに、私のリサーチアシスタントのヤコブのおかげで、誰でもこのモデルをいじることができるようになった。
人的損耗戦モデル(Attrition Warfare Model:AWM)
人的損耗戦モデルは非常に単純で、基本的には会計デバイスだ。主に仮定されているのは、(1)参戦国による戦争物資生産の将来ダイナミクス、(2)物資が死傷者にどのように変換されるか、(3)終点がどのように決定されるか、である。詳細は査読前論文にある。
モデルの全体的なメッセージは非常に明快だ。戦争が(2022年末以降に)消耗戦となり、西側諸国の制裁がロシアの生産能力を停止させることに失敗したことが明らかになり、終焉に至る本質が数学的に確定したのである。むろん、低い確率(「ファットテール」と呼ばれる)で大きなゲームチェンジが起こる可能性は常にある。しかし、ファットテールが起こらないことを条件にするなら、このモデルはロシアの最終的な勝利を予測している。この予測は、7月に公開した記事「ウクライナ戦争についての予測 その4:予測」を少し洗練させたものだ。以下にグラフとして示す。
上のグラフはウクライナ側の死傷率のダイナミクスについて人的損耗戦モデル(AWM)が生成した10個を具現化したものだ。青い点線は推定される終焉点(戦争が持続不可能となる場合の死傷率の水準)を表している。
最終的な結末に疑問の余地はない(ゲームチェンジャーとなるような出来事がない限り)。ただ、紛争がいつまで続くかについては、多くの不確実性が存在している(モデルでは、青の点線と茶色の曲線がどの水準で交わるか)。この不確実性のいくつかは、予想に影響を与える様々なランダムイベントによるものだが、それ以上に、モデルのパラメーターや初期条件(砲弾の初期在庫量やその消費率など)に関する正確な知識の欠如によるものだ。このパラメーターや初期条件の問題は、もっと良質の知識が利用できる戦争終結後にある程度改善されるだろう。
この査読前論文で説明している人的損耗戦モデル(AWM)を利用して、予測される結果を覆すのには何が必要かを探ってみた。分かったのは、ロシアの兵器生産能力を早期に抑制することが必要条件になっていることだ(読者が別の仮定条件を見つけたら意見を聞いてみたい)。この〔ロシアの生産能力の早期抑制〕は2023年1月までに実現しなかったので、(前回の記事で取り上げた2つの代替予測については)どちらが現実に基づいていて、どちらがそうでなかったのかは、今ではハッキリと明らかになっている。
〔訳注:シリーズ記事の「その1」、「その2」、「その3」、「その4」、「その5」〕
〔Peter Turchin, “War in Ukraine VI: Adding Economic Power to the Attrition Model” Cliodynamica, DECEMBER 10, 2023〕