ジェフ・ビドル（Jeff Biddle）の「エアコン、移住、気候絡みの賃金・家賃格差」と題された論文のアブストラクト（要旨）より。
本稿では、1960年から1990年までの期間を対象に、エアコンの普及がアメリカの温暖な地域（南部および南西部）における「生活の質」に影響を及ぼしたかどうか――どこに住むかの決定だったり、賃金や家賃（賃貸料）の地域間（南北間）格差だったりに無視し得ないインパクトを持つくらい「生活の質」に影響を及ぼしたかどうか――を調べる。エアコンの使用と関わりのある気象条件を組み合わせて作成した指標を使った検証によると、温暖な大都市圏（大都市統計地域）への高齢（65歳以上）の転入者の数が1960年から1990年までの間に増加傾向にあることを示す証拠はほとんど得られなかった。さらには、ロバックの空間均衡モデル――Roback (1982)――の枠組みに依拠して、大都市圏の間の賃金格差、家賃格差、気候の違いのデータに分析を加えたところ、暑い夏という気候に対する「暗黙の価格」が1960年から1980年までの間に大して変化せずに、1990年までにマイナスに転じたことが見出された [1] … Continue reading。エアコンのおかげで暑い夏がしのぎやすくなったのであれば、そうはならないはずである [2] 訳注；暑い夏という気候に対する「暗黙の価格」がマイナスになるはずがない、という意味。。暑い夏という気候に対する「暗黙の価格」がマイナスに転じた理由の一部は、暑い夏という気候が（所得が増えるにつれて需要量が減るという特徴を備えた）下級財であるためかもしれない。本稿では、そのことを裏付ける証拠を提示する。さらには、温暖な大都市圏への新規の転入者が平均的な先住者よりも夏の暑さを嫌っているために、暑い夏という気候に対する「暗黙の価格」が引き下げられているという仮説と整合的な証拠も提示する。
ロス・エメット（Ross Emmett）がコメント欄で教えてくれた論文だ（他にも非常に有益なコメントがたくさん寄せられている）。ビドルは、エアコンの歴史について他にも2本の論文を書いている。エアコン絡みだけじゃなく、他の話題でも興味深い論文を多数書いているようだ。ビドルが過小評価されている経済学者の一人なのは間違いない。
ところで、スコット・サムナーが（米国内の人口移動のパターンを説明する上で）「州の所得税」の重要性を切々と訴えている〔拙訳はこちら〕。私の判断では、州の所得税は「主要」な要因だとは思えないが、重要な要因ではあるだろう。サムナーの言い分の一部を引用しておくと、「西海岸にある州に目を転ずると、どの州の人口も全米の人口増加率を上回る勢いで増えている。南部の中央に比べると気候面で過ごしやすいというのはその通りだが、データを詳しく調べてみると明らかになることがある。太平洋に面している5つの州のうちで人口増加率が最も高いのはどこかというと、アラスカ州と、暑くて日当たりのいいワシントン州なのだ。ところで、（西海岸にある州の中で）州の所得税がないのも、アラスカ州とワシントン州だけなのだ」。私の考えもいくつか付け加えておこう。所得格差が拡大していることを踏まえると、一方の州から他方の州への移住者の数がそんなに多くなくても、その二つの州の間で成長率や雇用創出率に明確な差が生まれる可能性がある。そして、「所得税が高い」州から「所得税が低い」（あるいは、所得税がない）州へと移住する余裕が一番あって、移住する可能性が一番高そうなのは誰かというと、高所得者に違いない。
〔原文：“Jeff Biddle on migration and air conditioning”（Marginal Revolution, March 30, 2015）〕
