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Margalit & Shayo 「金融市場は社会的価値観と政治的見解をどう変化させるのか」2021年1月31日

[追記:opitical_frogさんのからのアドバイスを受けて一部訳を変更しました。あと、タイトルもすこし変更。]

Yotam Margalit, Moses Shayo

2021年1月31日 原文

概要:

市場が参加者の価値観や政治的選好に与える影響は長い間論争の的となってきた。このコラムでは、金融市場への参加の効果を評価するために大規模なフィールド実験を用いた。英国全土のサンプルからなる参加者へ、6週間の間に株式や非金融資産に投資できるある程度の金額が無作為に与えられた。その結果は株式への投資が、個人の責任や成果、経済的成功における運の役割などの問題を含めた社会や経済に対する右傾化した見方につながることを示している。また市場へ友好的な政策や規制緩和への支持も高まっていた。

この数十年、金融市場の存在感は世界中で飛躍的に増してきた。これは、金融セクターの規模の拡大と国民所得に占める割合の増加だけでなく、直接なりあるいは年金投資を通じて株式売買を行う個人の数の増加を反映している。この傾向は人々が観たり賭けたりするスポーツイベントも無いまま家に引きこもっていたCOVID-19のロックダウンの期間中にさらに顕著になってきた。例えばフィデリティでの株式取引は、2020年第3四半期に前年比97%増加した。これは、物質的な利益を中心にすえ、リスクテイクとリスク軽減の継続的な検討を伴い、勝者と敗者という強い概念を喚起することが多い活動に参加する人がどんどんと増えていることを意味している。金融活動の経済的利益とリスクについては広く議論されてきた(e.g. Cornelli et al. 2020、Delle Monache et al. 2020、Furceri et al. 2019)。この新しい研究において、我々はその政治的な含意について研究してみた。

モンテスキューやアダム・スミスからマルクス、シュンペーター、アルバート・ハーシュマンに至るまで、多くの思想家が市場活動からの社会・政治への影響の可能性を認識してきた。しかし、その影響の性質や方向性については合意がほとんどなく、体系的な証拠はさらに少ない。市場のポジティブな影響、つまり倹約、節度、分別、秩序、責任を育むとする者もあれば(Montesquieu 1748、McCloskey 2006)、市場は社会関係を商品化し、人々が他者をエゴイスティックに利用するようにしてしまうという者もいる(Marx and Engels 1848, Polanyi 1957, Sandel 2012)。

同様に、金融活動は政治的見解にも影響を与えるのかもしれない。ブッシュ大統領による「社会保障の民営化」の推進を思いだしてほしい。大統領の支持者の中には、株式市場に利害をもつ人々の割合の高まりは、イデオロギー的な右派の有権者の増大につながるという意見があった。しかし市場、特に金融市場を経験する事が個人の社会-経済的価値観や政策選好に影響を与えるという考えはいまだに大部分が推測でしかない。

金融活動が個人の選好に与える影響を理解する上での大きな困難は、そういった活動は当然ながら他の多くの個人的、社会的、政治的要因と関連しているということだ。例えば、所得が高い人や自由市場への信頼が高い人ほど、金融市場に参加しようとするのかもしれない。こういう困難を克服するために、我々はフィールド実験を実施し、その結果を新しい研究で報告した(Margalit and Shayo 2020)。実験は、英国の成人2,700人からなる全国サンプルを用いて実施され、そのうち60%は株式市場にこれまで投資したことがない人達だった。我々はそのうちの1,560人を無作為に選び、6週間の期間にわたって金融資産に繰り返し投資することができるある程度の金額(£50)を与えた。また実験の前と後の数週間、別の調査として参加者の社会的・政治的態度も追跡した。

アップル、ロールスロイス、シーメンスなどの実際の株式で取引したメインの実験群の他に、我々は対照群とさらに2つの金融資産についての実験群を考察した。これらの追加の実験群は、(a)投資が本当のお金によるものなのか空想上のものなのか(つまり、実際の金銭的な利害を生まないもの)、そして(b)投資対象が企業の株なのか、それとも地域経済とは無関係の資産、特に米国のスポーツチームのパフォーマンスを指標とした資産なのか、という点でメインの実験群とは異なっていた。これらの実験群は影響の異なる経路を区別するのに役立つように設計されたものだ。特にスポーツについての実験群は金融取引環境の全ての特徴(例えば、興奮やリスクテイクなどを生み出すようなもの)をすべて再現するようになっていた。参加者が実際の株式に関わらないことを除いて。

 

図1

説明:これらの図は実験前の選好や特徴をコントロールした上での実験の効果の推定値を示している。

 

資産の実験群に割り当てられた参加者は社会-経済的価値観、つまり経済的公平性、不平等と再分配、経済的成功における運の役割などに関する態度が右方向にシフトした事を我々は発見した。このシフトは図1の一番上のパネルに表されている。これは社会‐経済的価値観(個人の責任と政府の責任の関係、所得の不平等と再分配、そして経済的成功における幸運の役割についての態度)の指標についての3つの実験群による効果を示している。全体として、資産の実験群への割り当てられる事は労働・保守両党の支持者の間のギャップの9~12%に相当する社会-経済的価値観の右シフトをもたらした。この実験群の効果は1年後の追跡調査でもほぼ持続していた。これらの結果は、イスラエルで行われた実験から得られた最近の発見を補完するものとなっている。その実験は、株式市場への投資は和平交渉や安全保障の問題について人々を左へ移動させることを発見していた(Jha and Shayo 2019)。

この効果は何によって引き起こされるのだろうか?まず一つの可能性としては、投資活動自体が、物質的な利益、リスクテイキング、勝ち負けに焦点を当てさせることで、伝統的な市場活動を超えた問題に対する見方にも影響を与えるような感情や推論の様式を誘発しているのではないかというものだ。第二の可能性は、投資活動それ自体ではなく、金融市場や実在する企業の株式との関わりが、社会‐経済的価値観に影響を与えているというものだ。投資家は、金利の変動のインパクト、価格への政治的イベントの影響、市場規制の結果など、経済や市場の働きの幅広い側面を経験する。その結果、金融市場に対する親近感をうまれ、そして信頼が深まるのかもしれない。

我々の結果は、第二の可能性を支持している。図1に見られるように、社会-経済的価値に対する実験の効果は、実際のお金を使って実際の企業の株式を取引するように割り当てられた被験者の間でより顕著だった。 このグループの被験者では、その効果は労働-保守党間のギャップの 11~14%に相当するものだった。対照的に、株式市場ではなく野球チームの成績に連動した資産への投資の方では効果が小さかった(そして統計的に有意ではない)。そしてまた、空想の金を使った実験の被験者の間では効果を検出することはできなかった。

社会-経済的価値観の右方向へのシフトは左翼・右翼双方の有権者において起こったが、左翼の有権者の間でより顕著だったし、態度の変化が実験期間中の参加者の投資成績によって決ったという証拠はほとんど見られなかった。またこのデータから、態度の変化が被験者のリスク許容度の大きな変化によって引き起こされた可能性を否定できた。反対に、市場投資の経験が一般人の市場への投資能力に対する彼らの信頼感と彼らの投資意欲を高める事を発見した。こういった市場志向の変化が社会-経済的価値観の大きな右傾化を説明できるかもしれない。

また我々は様々な政策領域に関する意識についても調査を行った(図1の2番目と3番目のパネル)。投資を行う実験群に割り当てられた被験者、特に実際の金を使った株式市場への投資に割り当てられた被験者は、市場規制や税制に関する政策についての見解が明らかに右傾化していた。対照的に、失業保険への政府支出については効果がなかった。最も顕著だったのは、年金貯蓄の民営化をめぐる政策論議に対する参加者の見解への影響だった。対照群と比較して、実験群への参加後、実際の株式投資の実験群の参加者達は市民による国民保険(NI)貯蓄の株式市場への投資を認めることを支持する可能性が約7.5%ポイント高かった。これはベースラインの支持率を31%近く上回っている事になる。

全体として、これらの結果は増大する金融セクターの政治への目につきにくい影響を示唆している。この影響は多額の選挙献金やロビー活動、米国政府内のゴールドマン・サックス幹部たちの目立つ存在など、目に見えて広く議論されている影響力の経路を超えたものだ。市場志向な社会-政治的展望を促進することで、市場は参加者の増加が更なるその拡大への幅広い支持を生み出すような自立的なダイナミズムを生み出しているのかもしれない。

参照文献

Cornelli, G, J Frost, L Gambacorta, P R Rau, R Wardrop and T Ziegler (2020), “Fintech and big tech credit markets around the world”, VoxEU.org, 20 November.

Delle Monache, D, I Petrella and F Venditti (2020), “COVID-19 and the stock market: Long-term valuations”, VoxEU.org, 24 August.

Furceri, D, P Loungani and J D Ostry (2019), “The aggregate and distributional effects of financial globalization”, VoxEU.org, 02 December.

Jha, S and M Shayo (2019), “Valuing Peace: The Effects of Financial Market Exposure on Votes and Political Attitudes”, Econometrica 87(5): 1561–88.

Margalit, Y and M Shayo (2020), “How Markets Shape Values and Political Preferences: A Field Experiment”, American Journal of Political Science.

Marx, K and F Engels (1848), Manifesto of the Communist Party, 2013 ed., Simon & Schuster.

McCloskey, D N (2006), The Bourgeois Virtues, University of Chicago Press Economics Books.

Montesquieu, C L S (1748), The Spirit of the Laws, 1989 edition, Cambridge University Press.

Polanyi, K (1957), The Great Transformation, Vol. 5, Beacon Press.

Sandel, M J (2012), What Money Can’t Buy: The Moral Limits of Markets, Macmillan.


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