ノア・スミス「アメリカは台湾有事の備えができてない」(2023年10月15日)

台湾をめぐる戦争の可能性は現実味を帯びている.そして,アメリカは備えができていない.
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台湾をめぐる戦争の可能性は現実味を帯びている.そして,アメリカは備えができていない.

「このあたりは,子供時代に見知っていたイングランドのまんまだった:線路沿いの野の花,赤いバス,青い警官たち――イングランドのなにもかもが,深い眠りにおちている.ときどき,不安を覚える――いつかこの眠りから私を覚ますものは,炸裂する爆弾の轟音なのではあるまいか.」――ジョージ・オーウェル,1938年

まるで,長い封印がすっかり解かれたかのようだ.2022年には,核兵器を持つ大国が隣国に侵攻して征服を試みる事態をぼくらは目の当たりにした.いまや,イランがイスラエルとの戦争に突入する脅しをかけている.アメリカは,その事態を抑止するために空母打撃群を同地域に派遣している.一方,アゼルバイジャンはアルメニアに侵攻する準備を整えつつあるおそれがあるし,セルビアはコソボに侵攻するかもしれず,他にも世界各地で戦争や虐殺が起こりつつある

先週の記事日本語版〕では,こういう仮説を語った――アメリカの抑止力が衰えたことが,いま世界が戦争が起こりやすい無政府状態に陥りつつあるように見える大きな理由だ.ぼくは外交政策の専門家じゃないけど,ポール・ポーストハル・ブランズの二人は専門家だ.その彼らも,同じ仮説を提示している.とくに,イスラエルとハマスの戦争が,もっと大規模な大国どうしの争いの延長になっている度合いを,多くのアメリカ人は認識できていないと思う.その争いとは,一方にロシア・イラン・中国の枢軸,もう一方にアメリカとその同盟国がいて対立している争いだ.ぼくがいう「新しい枢軸」は,中国の経済力の成長とアメリカ国内の分裂と防衛産業基盤の衰えに勢いを得て力を強めつつある.

ただ,まだ最後の一歩は踏み出されていない.ロシアは機能不全のせいでウクライナで思うようにことを進められていないし,イランの軍事力は制限されている.そのため,こうした戦争がさらに拡大して地域全体を荒廃させる見込みは薄い.それに,世界経済が脱線してしまうこともなさそうだ.ロシアとイランはどちらも石油国家だからね.まぎれもなく事態を激変させるきっかけとなるのは,台湾をめぐるアメリカと中国との戦争だろう.

もしも備えがないままにそのときを迎えてしまったら,それはひとえにぼくらの落ち度だ.習近平は,中国の戦争準備を進めているところだとかねがね公言している.中国の国有メディアは,台湾攻撃がどう進行するかを語る番組をあれこれと放送してるし,中国軍は攻撃計画を描いたアニメーションを公開している.中国は,台湾近海でほぼ絶え間なく空軍・海軍の訓練を繰り返している.あれは,ゾッとするほど〔実際の作戦行動を想定した〕演習らしく見える.それに,中国経済はいま減速している.これも,軍事的な冒険に乗り出すさらなるインセンティブになる.

ふつうのアメリカ人の大半は,米中戦争の心の準備なんてしていないだろうし,米中戦争が起きたらどういう事態につながるかってことも深く考えたことがないだろうと思う.ぼくらの大半は――かくいうぼくも含めて――プーチンがウクライナ侵攻の意思を持ち合わせていたことに驚いたし,イスラエルとハマスの戦争の苛烈さと拡大ぶりにも驚いた.これは,例外のようには思えない.第二次世界大戦の当時を振り返った回想を読むたびに,真珠湾に爆弾が降り注ぎはじめた瞬間まで,アメリカが戦争に突入する可能性を当人たちがどれほど低く見ていたかにいつもびっくりする.

ただ,ルーズヴェルト政権は何年も前から戦争を予期して,準備に取りかかっていた.同様に,いつか中国との戦争がはじまるかどうかにかかわらず――ぜひとも勃発しないでほしいと願ってるけど――アメリカはいますぐ準備にとりかからないといけない.ヨーロッパや中東で勃発した戦争は,ぼくらにとっての警告になっているはずだ.これを無視していたら,悲惨な事態を招くことになる.今日おきている戦争に注意を向けすぎるあまりに,明日おこるかもしれない戦争について考えるのを忘れてしまってはいけない.

ともあれ,ここでは,政府と企業がどう備えられるかについて語ろう.ただ,そのまえに,この戦争が実際に起こりうる見込みについてみんなに警告したときによく出くわす懐疑的な意見をとりあげておくべきだろうね.

「でも,アメリカがほんとに台湾をめぐって中国と戦争することになんてならないでしょ……ならないよね?」

ぼくにとって,『指輪物語』でお気に入りの登場人物は,ずっとガンダルフだった――メロドラマ的なところがあるうっかり者の老魔法使いだけど,いざというときには頼りになる人物だからってだけじゃなく,他のみんなが見過ごしている危機を予見できるところがお気に入りだった.『二つの塔』でとびきり記憶に残る場面のひとつは,サルーマンの軍勢が襲来するのをテオデン王に警告するところだ.テオデン王の不忠な助言者のワームタングはガンダルフの警告を一笑に付すけれど,最後には,危機が本物だってことをガンダルフが王に納得させる.カッサンドラと対照的にガンダルフが成功を収めるのに,ぼくはつねづね感銘を受けたものだ.

台湾をめぐる戦争についてぼくがアメリカ人に話をするとき――とくにテック業界の人たちに話をするとき――きっとガンダルフが覚えたにちがいない苛立ちを,ぼくも少しばかり味わうことがある.台湾をめぐる戦争の話をしたとたんに,相手は「ギョッ」とした表情を浮かべて,こう聞き返してくる:「いや,アメリカがほんとに台湾をめぐって中国と戦争することになんてならないでしょ.」

でも,アジアの人たちがたがいに戦争をするあいだもアメリカがおだやかにくつろいでいる様を想像していれば居心地がいいかもしれないけれど,そんな風にはなる見込みはとても薄い.なぜかって,その理由は,たんに TSMC が世界規模の半導体サプライチェーンにとって不可欠だからってだけじゃなく,また,台湾そのものに特有な事情のせいだけでもない.もし中国が台湾を攻撃したら,最初の標的になるのはおそらくアメリカの基地だからだ.

1年前の記事で,このことを解説しようと試みた.

ちょっとばかりゲーム理論を引っ張り出したりもしてるけれど,要点はごく単純だ.アメリカは台湾周辺にたくさんの軍事基地をもってる.たとえば,沖縄,グァム,フィピリンの基地だ.そうした基地には航空機やミサイルなどなどがあって,侵攻する側の中国艦隊をかなり容易に撃沈できる.そこで,台湾侵攻を決定したなら,中国はこんな選択を迫られる:

  1. アメリカは好きなタイミングで中国側の侵攻を止められると知りつつ侵攻に踏み切る.ただし,中国側の死傷者は膨大な数に上るし習近平と中国共産党は破滅的なまでに名声を失うことになる.
  2. 侵攻前に飽和ミサイル攻撃によってアメリカ軍の基地を破壊するか,せめて深刻な打撃を与えておく.

さて,自分が習近平と中国共産党の立場にいて,この侵攻の正否に自分の生涯と政治体制の正当性をすべてかける決意を固めているとして,この状況でどちらをキミなら選ぶ? ジョー・バイデンは,台湾防衛に必ずかけつけるとこれまで何度も明言しているし,バイデン政権は「アメリカの立場は変わっていない」と事後的に発表しただけだ.キミなら,バイデンの発言がたんなるハッタリだって可能性にすべてを賭ける?

賭けるかもしれないし,賭けないかもしれない.かりに,アメリカの無関心だか自制だか虚勢だかに自分の未来をまるごと賭けるのはろくでもない考えだと習近平が計算したなら,その場合,習近平は侵攻前に太平洋のアメリカ軍基地を叩いておこうとするだろう.そうなったら,真珠湾パート2だ――アメリカはすぐさま中国との戦争に突入する.

考慮すべき要因はまだある.それは,日本だ.近年,日本の計画立案者たちは「台湾侵略は日本にとって直接の脅威だ」と自分たちが考えていることを明らかにしている.日本は,もはや平和主義じゃなくって,対中国の防衛のために軍事力を大きく増強しつつある.日本がそこまで懸念している理由について,2020年のブログ記事で Tanner Greer が解説してる.台湾を支配下に置くと,中国はこれまでよりずっと容易に日本を爆撃したり,さらに/あるいは封鎖したりできてしまうんだ.

日本が先陣を切って,中国艦隊の侵攻を止めようとする可能性もある.その場合,2国間での戦争につながる.アメリカは日本の条約同盟国だから,日本が攻撃されたときにはその防衛に加わる法的な義務がアメリカにはある.この場合も,アメリカは戦争の埒外に留まっているのは難しい.

以上をまとめると,今後数年のうちに中国が台湾に侵攻する顕著な見込みがある.いざそうなったときには,結果としてアメリカが中国との戦争に突入する見込みはとても大きい.その戦争は,ヨーロッパや中東の状況をはるかにしのぐものになるだろう.これは,テールリスクじゃない――つまり,きわめてありそうにないけれど回避の手を打つ必要がある破滅的な事態じゃない.これは,現実味がある切迫した大きなリスクだ.たんにリスク回避してすませられるものではなくて,積極的にこれに備える必要がある.

アメリカ企業は中国以外の多様な選択肢を確保すべき

アメリカの民間部門は,中国経済とかなり強く絡み合っている.アメリカは毎年 5000億ドル以上を輸入している(貿易の付加価値の数字を見た場合に,現時点でこれよりも大幅に小さくなるのかどうかははっきりしない).アメリカは中国からの貿易分離をはじめているけれど,ゆっくりとしか進んでいない――Gavekal Dragonomics によれば,中国からの輸入が占める割合は,おそらく 21% から 18% に下がっている.とはいえ,それだって大きな割合だ.中国からの輸入品目のなかには,アメリカの販売業者が消費者に売るために輸入している消費財もあるけれど,多くは中間財で,そっちはアメリカの製造業の各種生産プロセスにとって重要なインプットとなっている.

想像してみよう.ある日,中国がアメリカ軍の基地に飽和ミサイル攻撃を仕掛けてきたとき,そういう輸入品目はどうなるだろう? その大半は,きっとすぐさまアメリカに入ってこなくなる.そうなる理由はいくつかある.第一に,中国周辺での海運にリスクが生じる.第二に,中国は輸入を途絶させる見込みが大きい(工場の生産を軍需に振りむけるため).第三に,アメリカ政府とアメリカ社会は,中国からいろんな部品を購入するのを止めるように企業に強い圧力をかけるはずだ.

すでに,中国からの輸入のごく一握りがいきなり途絶えたときにどうなるか,その予告編をぼくらは目の当たりにしたことがある――コロナウイルスのパンデミックだ.あのとき,中国は突如として医療品の製造を自国用に振り向けた.アメリカが自国のためにマスクや人工呼吸器や検査キットを製造しはじめるまで,数ヶ月かかった.さて,アメリカ経済全体にわたってあれと同様の輸入途絶が起こったらどうなるか想像してみよう――たんに消費財が中国から入ってこなくなるだけじゃなく,アメリカの誰ひとりとしてもはや作り方を知らないすごく重要な部品や生産要素が入ってこなくなったときのことを想像してみてほしい.

さらに,原料の輸入途絶も起こる――世界の重要鉱物の大半が中国で採掘されているわけじゃないけれど,その大半の加工や精錬は中国で行われている.必要な原料がなくなってしまって,いままで長年にわたってまるごとほったらかしにされていた数千億ドル相当の製造業をゼロからつくりなおす必要に迫られたときのことを想像してみよう.

これこそ,いまアメリカ企業が直面してるリスクだ.仕入れを全面的に中国に頼っている企業にとっては,存続を危うくするリスクだ.さて,そういう立場にある企業には,基本的に2つの選択肢がある:肩をすくめて会社消滅のリスクを受け入れるか,サプライチェーンを中国以外に多様化して,来るべき消滅のリスクを転じて大きいとは言え手に負えるリスクにするか,そのどちらかを選ばなくてはいけない.

これは重要なちがいだ.戦争が始まったその日に,中国以外にサプライヤーが皆無の状態だったら,そのアメリカ企業は調達先を必死で探し回らなくてはいけなくなる.中国以外にもサプライヤーをいくらかもっている企業なら,そういうサプライヤーからの購入規模を拡大できるだろうし,そこのエンジニアや管理職を利用して他のサプライヤーに教えてもらうこともできるだろう.つまり,中国以外の多様な選択肢を確保している企業だったら,戦争がはじまったあともずっと迅速に体制を整え直して生産を続けられるようになるはずだ.

数年以内に中国以外の選択肢を確保しようと試みているアメリカ企業は多い――いちばん悪名高いのは,Apple で,すでにインドその他に生産地を移しはじめている.ただ,ここで重要なひねりが加わる.自社の供給の一部を中国と無縁にするといっても,それはたんに,中国国内にない会社から製品を購入するってだけの話ではすまない.調達先のサプライヤーも,中国国内にない企業から製品を購入しないようにして,さらにその調達先も同様で…という具合に,原材料まですべての調達が中国と無縁にならなくてはいけない.関連する中間財のサプライチェーン全体がまったく中国に関わりをもたないか,いざ戦争状況になったら容易かつ迅速に置き換えられるかたちでだけ中国と関わりをもつようにならないといけないわけだ.

それには,アメリカ企業が調達先を切り替えるだけではすませられない.サプライチェーン全体の監査も必要だし,サプライヤーたちが調達先を切り替える助けもしないといけない.Apple みたいな大企業なら,そういうこともできる.でも,アメリカ企業の大多数には,サプライチェーン全体を監査するようなリソースなんてない.

ここで,アメリカ政府が手助けできる.政府はすでにサプライチェーンの監査をやってるから,その専門知識の一部をアメリカ企業に無料で提供できる.それには,政府の側にちょっとばかり規模拡大が必要になる.また,監査に加わる民間部門の提携企業の登録も必要だ.それでも,これには値打ちがある.なぜって,アメリカの産業の大半にわたってサプライチェーンの監査を首尾よくできれば,いざ中国からの輸入が雲散霧消したときに,アメリカ企業が崩壊してしまう事態に対する耐性がはるかに強くなるからだ.

アメリカ政府は防衛産業基盤を再構築しないといけない

アメリカが第二次世界大戦にどう備えたかを振り返ると,きっと役に立つ.政府はいきなり1941年12月7日に行動を起こしてゼロから軍需生産をはじめたわけじゃない.ルーズヴェルト政権は大きな戦争のリスクを見越して,数年前から戦争に対応するための基礎的な用意を進めていた.この件についてとくに読んだことがないなら,まずは次の3冊からを手に取るのをおすすめする: デイヴィッド・ケネディの Freedom From Fear,アーサー・ハーマンの Freedom’s Forge,マーク・ウィルソンの Destructive Creation,この3冊だ.

かいつまんで言うと,ルーズヴェルトと彼の政府はおこりうる第二次世界大戦への備えを何年も前からはじめていた.あの戦争で人々が思い浮かべやすい象徴のひとつになっている B-17 爆撃機が最初に計画されたのは,1934年のことだ(ちなみにぼくの祖父が搭乗して戦った機種でもある).ヨーロッパでヒトラーが戦争を始める見込みが強まった 1938年には,ルーズヴェルトは防衛支出を増やした.ヨーロッパで実際に戦争がはじまった1939年,そして翌1940年には,ルーズヴェルトは国家緊急事態宣言を発して,生産管理局を立ち上げている.でも,アメリカでの生産が本格的にはじまったのは,1941年3月のレンドリースからだ.これによって,イギリスに(そして後にはソ連にも)ナチスと戦うための武器が供給された.こうしたこと全部が,真珠湾に爆弾が降り注ぐずっと前に起こってる.

アメリカ政府はこれと同じくらい先を見越して今日にも動く必要がある.準備をはじめるまで,10年どころか5年すらも猶予がない.1938年のときと同じく,大国による戦争が実際にはじまるかどうかはまだ定かじゃない.でも,その見込みは十分に大きいから,バイデン政権はこの国のリスク回避をはじめるべきだ.

サプライチェーン監査と〔中国以外への〕生産移転や国内・友好国への生産回帰のインセンティブは重要な課題だ.産業政策は,いま,アメリカの電子機器産業やエネルギー産業の構築を助けている.でも,なにより急を要するのにいちばんおろそかにされているには,アメリカの防衛産業基盤の再建だ.

アメリカの軍需生産能力がどれほど弱体化してるか,アメリカ人は認識していないように思える.防衛支出の総額よりも,ほんのわずかな具体的事実を見た方が,事態がいっそうはっきりわかる.ウクライナ支援のために,アメリカは砲弾の産出を増やしてきたけれど,その量はいまだにひどく少ない.目下,アメリカは1ヶ月あたりに約 28,000発を生産できる.ペンタゴンは,2025年までにこれを 100,000発に増やす計画を立てている.一方,1990年代中盤のアメリカには,1ヶ月あたり 867,000発をつくる能力があった

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あるいは,船舶建造を考えてみるといい.アメリカの船舶建造能力はあまりに弱体化してしまっていて,ある諜報機関の推計では,中国が建造できる船舶の 0.5% しかアメリカには生産できないほどになっている.

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伝統的な野砲の砲弾よりもいっそう現代の戦場で意義の大きいのは,ミサイルやドローンだ.当然ながら,そういうミサイルやドローンでも同様にこういう不均衡な生産能力の統計がみられる.

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アメリカの製造の機能不全は,軍事にまで及んでいるという話のパート2:「ペンタゴンは,早ければ18ヶ月以内に数千台の安価なドローンを購入したがっている(…).ところが,その主要なドローン供給業者の Shield AI が昨年生産したドローンは,38台だった(…)

なにかのスプレッドシート上でアメリカが軍事にどれだけのお金を注いでいるかは重要じゃない.中国の生産ペースにくらべてほんのわずかな割合でしか弾薬や船舶やミサイルやドローンを生産できないなら,アメリカは中国との戦争に負ける.そういうごく単純な話だ.ほぼいつでも,戦争は当初みんなが予想した以上に長引く――ウクライナを1週間で征服してやろうっていうプーチンの目論見がどうなったか見てみるといい.あるいは,第一次世界大戦を戦った国々が「ほんの数ヶ月で終わる」と思ってたのを見てみるといい.アメリカと中国は,開戦からまもなくして武器の備蓄を使い果たす.そうしたら,アメリカはとてつもない生産能力を持つ相手に抗することになる――ちょうど,第二次世界大戦のときと立場をそっくり入れ換えた格好になってしまって,今度は相手のもつとてつもない生産能力に抗していかないといけなくなるんだ.

そこで,防衛産業基盤の再建が必須になる.それも,迅速にだ.当然ながら,調達プロセスには改革が必要だし,ドローンな新テクノロジー製品を民間部門の小さなスタートアップ企業から国防総省が購入できるようになる必要がある.ただ,ハイテクスタートアップ企業が,弾薬や船舶みたいな地味なニーズを解決する見込みはとぼしい.そっちの面では,もっと多くの製造企業をアメリカは必要としてる.アイオワの70歳の老人が所有する老朽化した町工場に,死活問題になる軍事物資の製造をまかせるわけにはいかない.1980年代の規模にまで,産業の共有財産を復活させなくてはいけない.

ひとにぎりの指導者たちは,このことを認識してる.でも,政治的な政治的な左右どちらの陣営にも,このために必要な切迫感は存在してないようだ.

アメリカ政府には,ここで役立ちうるツールの持ち合わせがある――国防生産法 (Defense Production Act) のおかげで,政府は基本的に民間企業による生産を統制できる.ただ,フォードや GM にミサイル製造を開始せよと言うだけでは,ことは成し遂げられない.アメリ政府はお金を出す必要がある.残念なことに,そうするためには,医療か何かへの支出を削減することになる.なぜって,財政赤字はすでに大きくなりすぎていて,財政緊縮の圧力が高まってきそうだからだ〔日本語版〕.間違いなく,これは政治的に厳しい要件だ.ぼくにも,これをどうにかする名案はない.ただ,だからといって,ミサイルがこちらに発射されるそのときまで待ってから,衰退した防衛産業基盤の再建に必要な厳しい財政の選択にとりかかるのは,おすすめできることではなさそうだ.

ともあれ,ここで伝えたいもっと大きなメッセージは,これだ――「アメリカの民間部門も国民全体も,さらには政府すらも,中国との戦争のリスクへの備えが整っていない.」 その戦争は,けっきょく勃発せずに終わるかもしれないし,ぼくとしてはぜひとも勃発しないでほしいと願ってる.ただ,準備がないままでそのときを迎えれば,最悪だ.アメリカや同盟国や世界全体の安全保障と自由にとって厄災となるだけでなく,アメリカ人みずからにとっても厄災になる.いざそのときがくれば,アメリカ人は突如として消費財を手に入れられなくなったり,重要な世界市場から閉め出されたりといった事態に見舞われる.

心構えも,政策による備えも,やっておくに越したことはない.ウクライナやイスラエルでの戦争から学んだことがあるとしたら,それはこういうことだ――「ぼくらが暮らす世界は,5年前や10年前よりもずっと変動が激しくて危険になっている.」


[Noah Smith, “We’re not ready for the Big One,” Noahpinion, October 15, 2023]

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