タイラー・コーエン 「魔法の道具は過大評価されている」(2017年2月9日)

この世に存在しない「魔法の道具」を手に入れたとしても、その見返りは思ったほどじゃないかもしれない。

数日前に「架空の道具(装置)で何か欲しいものってある?」という問い〔拙訳はこちら〕を投げ掛けたが、読者の答えを眺めていて思い知らされたことがある。贅沢(ぜいたく)な答えほど厄介事を抱えているように思えたのだ。そう考えるに至った理由の一つが、私の師の一人であるルートヴィヒ・ラッハマン(Ludwig Lachmann)が言うところの「資本の補完性」だ。

過去に行けるタイムマシーンを手に入れたと仮定しよう。面白そう・・・だよね? でも、あれこれ考慮しないといけないことがある。あなたがタイムマシーンに乗って辿り着いた時代は、暴力が蔓延(はびこ)っているかもしれない。出会った人々が語る言葉が(あなたが知っているのとは違う言語を使っているために)よく理解できないかもしれない。有害な細菌がそこらじゅうに飛び交っているかもしれない。感染病が流行しているかもしれない。過去から今に戻ってくる時に、大勢の命を奪うおそれのある疫病も一緒に連れて帰ってこないようにするにはどうしたらいいだろう? 過去への旅を難なくこなすのを補助してくれる財を探し回っても、どこにも見つかりはしないのだ。

魔法の鉛筆――紙に描いた物体を実物に変える鉛筆――を手に入れたとしたら、マクリーンだか誰かがあなたの部屋のドアをノックしてくる(「貸してくれ」と人が殺到する/「それをこっちに渡せ」と強奪しようとする輩が現れる)だろうし、運が悪ければ朝食のコーンフレークにポロニウム(放射性物質)を入れられてしまう(暗殺されてしまう)かもしれない。その鉛筆の存在をいつまで周りに秘密にしておけるだろうか? 防犯カメラがどこにあるかを常時把握できるだろうか? 一体いつまで無事に生きていられるだろうね?

瞬間移動するために転送装置を使うと、自分の体が複製されているうちに命を落としてしまうかもしれない。そのことを差し置いても、車が行き交う真っ只中だとか湖の中だとかに移動してしまうかもしれない。転送装置を扱う監視基地にはどんな機能を備えておいてもらいたいだろうか? 魔法を使ってやって来た旅人に暴力で応じる地域(文化)はどのくらいの数に上るだろう?  技術的に移動先を平原だけに限定するのは可能かもしれないが、平原に尻もちついて降り立つくらいなら、手荷物を預けてビジネスクラスに乗ろうかな(飛行機で移動しようかな)という思いが頭を掠(かす)めるかもしれない。

モナ・リザみたいな(魔力が備わっていないという意味で)何の変哲もない代物を手に入れたとしても問題含みだろう。盗まれないために対策しないといけないだろうし、劣化するのを防ぐために空調設備も設置しないといけないだろう。そのための費用は誰が払うんだろう? あなたの家はどう分類されるんだろう?(一般住宅のまま? それとも、美術館扱い?) モナ・リザが家にあることを誰にも知らせないで、友人たちとも距離を置く? そこまでして見返りに一体何が得られるんだろうか?

たとえ架空の道具や装置を発明できたとしても、たとえこの宇宙の物理法則を破ることができたとしても、その道具なり装置なりに備わる類稀(たぐいまれ)なる性能から予想される途轍(とてつ)もない恩恵に浴するのは途轍もなく難しい。この世で何らかの恩恵にあずかることができるのは、あれやこれやの協力があってこそなのだ。側面支援してくれるネットワークの支えがあってこそなのだ。ユニークな道具を手に入れても、大して援軍を得られないのだ。言い換えると、 市場の進化を迂回(うかい)しようしても、思ったほどの力は得られないのだ。


〔原文:“Why magic is overrated”(Marginal Revolution, February 9, 2017)〕

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