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アレックス・タバロック「思考の語彙と感情の語彙の興亡」(2021年12月19日)

[Alex Tabarrok, “The Rise and Decline of Thinking over Feeling,” Marginal Revolution, December 19, 2021]

英語とスペイン語の文章ではテクノロジーと社会組織に関連する思考の単語(「実験」・「重力」・「重み」・「コスト」・「契約」)は 1850年からおおよそ1977年ごろにかけてよく使われるようになった(1977年は「大停滞」の始まった年だ).これはフィクション・非フィクションのちがいを問わない.ところが,その後に思考系の単語は顕著に減少して,思い・精神性・知恵・直観に関連した感情系の単語がよく使われるようになっている(e.g. 「赦し」「癒やし」「感覚」).


▲ 合理性の単語の平均的な出現頻度/直観の単語の平均的な出現頻度の比の推移を示す.数字が大きいほど,合理性の単語の出現頻度が相対的に大きい.

上記のグラフには,合理性の単語と直観の単語との比が各種コーパスで時と共にどう変化してきたのかを示してある.論文はこちら

ポスト真理時代の〔真理・事実をないがしろにする〕政治の語り方が台頭してきていることから,感情と理性のバランスに関して特殊な時代に我々が暮らしていることがうかがわれる.実際にそうなのかどうかを検討するため,本研究では, Google nグラムで扱われている 1850年から2019年にかけての数百万冊の書籍の言語を分析する.本研究からは,「判断する」「結論」といった合理性に関連する単語の使用が 1850年以降系統的に隆盛していった一方で,「感じる」「信じる」といった人間の体験に関連する単語が減少していったことが示される.このパターンは,過去数十年で逆転している.この変化は,集団から個人に焦点が移る動きと並行している.この動きは,”I”/”we” や “he”/”they” といった単数形の代名詞と複数形の代名詞の比の変化に映し出されている.書籍の言語で機を同じくしてこうした変化が起きたことをどう解釈するかは,いまなお難題である.しかし,本稿で示すように,この逆転はフィクションだけでなくノンフィクションでも起こっている.さらに,感情と合理性それぞれの代表的な単語の比は,『ニューヨークタイムズ』の記事でも 1850年以降に変化している.ここから,我々が分析したコーパス群〔の性質・偏り〕ゆえに生じた不自然な結果ではないことがうかがえる.最後に,書籍に見られる単語の傾向は,グーグル検索語の傾向と対応していることを本稿では示す.この分析結果は,書籍の言語に見られる変化は人々の関心の変化を部分的に反映しているという考えを支持している.まとめると,我々の研究結果からは,過去数十年間で人々の関心が集団から個人へ,合理性から感情へと顕著に移ってきたことがうかがえる.

論文の著者たちは,言語が感情の方へ変化しているのは「ネオリベラリズム」の失敗によるものだと言っているけれど,これは疑わしいし,もっともらしい仕組みも提示されていない.どちらかと言うと,因果関係は逆向きだとぼくなら考える.もっと当たっていそうな説明としては,女性の書き手が増えてきたことと,それと密接に関連した文化の女性化が挙げられそうだ.

以前,『ニューヨークタイムズ』がどれほど短期間に〔差別・偏見に敏感な〕「覚醒派」になったかって記事を書いたけれど,この論文の分析はあれと整合してる.

多謝: Paul Kedrosky.


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