政策や医療で,ふつう,なにか実施してみた効果の推定値が目ん玉飛び出るほど大きくなってたら「こりゃ研究手法がおかしいんじゃないか」とすぐさま不審がるものだ.でも,レベッカ・ダイアモンドといえば実証ミクロ経済学の分野でとりわけまっとうで尊敬されている研究者だ.なので,GLP-1 ドラッグがまるで魔法みたいな影響を女性の生活に及ぼすんだと彼女が言うんだったら,少なくとも,ちょっと居住まいを正して傾聴した方がいい.
ダイアモンドの論文では,GLP-1 ドラッグを使いはじめた人たちを次の2グループと比較している.(A) GLP-1 を使用したいと申告しているけれど使用していない人たちと,(B) 少し遅れて GLP-1 を使いはじめた人たち.男性の場合には,減量そのものを除く生活面の変化は相対的にわずかだった.ところが女性の場合には,ずいぶん大きな効果が出ている.ダイアモンドの推定によると,減量薬を使いはじめた独身女性たちは,使いはじめていない独身女性たちに比べて,その後3年内に結婚したり同棲をはじめたりする確率が 29% 多くなり,職に就く確率も 27% 多かった.

これはまた劇的な結果だね.減量をテクノロジーで解決できるとらえてさっさと減量すべき理由が,またひとつ増えた――減量が健康にいいのは当然として,それ以外にも恩恵がある.「肥満の受容」運動は,あまりに度を超している――増えすぎた体重は「これも当人の個性のうち」とは扱わない方がいい.単純に,管理するなりなくすなりすべき物理的な障害として扱うべきだ.身体に脂肪が余分についてるのは基本的にファットスーツを着込んでるのと同じだ.のぞむなら脱ぎ捨てていい.
とはいえ,この1件の実証研究の結果をあまり信頼しすぎない方がいい.理由はいくつかある.もちろんダイアモンドはものすごく丁寧に GLP-1 使用者と非使用者を比較していて,できるかぎり条件を揃えた比較にすべく注意を払っている.それでも,GLP-1 を実際に使用するのに踏み切った人たちはそうでない人たちや遅れて使用しはじめた人たちとそもそもなにか違っている〔たんに使用/不使用だけのちがいではない〕可能性は残ってる.もっと主体性が強かったりもっとやる気があったりといったちがいがあるのかもしれない.もしもそうだったら,この人たちの方がパートナー獲得や就職を達成する確率が高くなってる理由の少なくとも一部は,それで説明されてもおかしくない.
ここでぜひとも必要なのは,自然実験だ――人々が GLP-1 ドラッグを入手する難易度を変える政策がいろんな地域で実施されるといい.できれば,地域ごとに政策の導入時期もちがっていればもっといい.そういう研究から得られた結果も今回の研究と同じようにプラスの効果だったら,こういう薬が夢のような特効薬だってことにいっそう自信を深められる.
(もちろん,減量しようってときに試すべきはドラッグだけじゃない.自転車で遠出なんていいんじゃないかな.とくに,クマならね.)
※最後の()のパラグラフは,「自転車に乗ったクマ」の表現を文中に盛り込めという読者からのお題に応えたもの.
[Noah Smith, “Not being fat is probably good for you,” Noahpinion, July 1, 2026]