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タイラー・コーエン 「経済学を学ぶ上でもってこいの小説は何か?」(2007年5月9日)/「政治について学ぶ上でもってこいの小説は何か?」(2007年1月26日)

●Tyler Cowen, “What are the best novels for teaching economics?”(Marginal Revolution, May 9, 2007)/【訳者による付記】関連エントリーとして本サイトで訳出されているタイラー・コーエン 「文学作品で学ぶ経済学」タイラー・コーエン 「金融政策を扱った小説にはどんなものがある?」もあわせて参照されたい。


エズラ・クライン(Ezra Klein)から次のような質問を頂戴した。

経済学を理解する(経済学的な考え方を学ぶ)上でもってこいのフィクションは何だと思いますか? 政治的に左寄りでも右寄りでもどっちでも構いませんが、私の政治的な立ち位置からするとスタインベックの『怒りの葡萄』を挙げたいところです。この点について貴殿のお気に入りの作品は何でしょうか? どういうお考えか興味があります。

平等主義への批判を学ぶためにカート・ヴォネガット(Kurt Vonnegut)のSF短編『Harrison Bergeron』(「ハリソン・バージロン」)を読めばいいという声もあれば、アイン・ランド(Ayn Rand)のアナルコ・キャピタリズム(無政府資本主義)をテーマとするSF小説を読むべきだという声もあるだろう。経済学と文学の融合を試みたラッセル・ロバーツ(Russell Roberts)の一連の作品も勿論外せない1。西洋の古典文学から選ぶとなると――政治的な傾向云々はひとまず脇において――(経済学的な考え方を学ぶ上では)何がいいだろうか?

個人的には1660年~1775年あたりのイギリス文学に目がいく。デフォーにはじまりスウィフトボズウェル、その他諸々と続く流れだが、いずれの作品も経済学者流の「合理的選択」の発想に立って書かれているように私の目には映る。ただし、承認欲求(他者からの賞賛を追い求める心性)や自己欺瞞、個人の行動に伴う負の側面(個人の行動が社会全体によからぬ帰結をもたらす可能性)への着目といった独特のひねりが効いてはいるが(この点について詳しくは私の『In Praise of Commercial Culture』の中の文学を扱った章を参照してもらいたい)。彼らの作品はアダム・スミスの『道徳感情論』のまごうことなき源泉ともなっているのだ。ディケンズバルザックもいいだろうが、私にはあまりに一本調子なように感じる。ハリエット・マルティーノにしてもそうだ。とは言え、18世紀の文学作品は相変わらず時代の先を行っている面があり、基本的な経済学を学んだり政策問題について深く考える助けにはきっとならないだろう。

読者の皆さんのお薦めは何だろうか?

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●Tyler Cowen, “What are the best novels about politics?”(Marginal Revolution, January 26, 2007)


エコノミスト誌のDemocracy in Americaブログで「政治について学ぶ上でもってこいの芸術作品は何だろうか?」という問いが投げ掛けられている。私としては本に話を絞りたいところだ。それも哲学書は除いてフィクションに限定すると、以下の5冊が頭に浮かぶ。

1. シェイクスピアの(一連の歴史劇である)『ヘンリアード2:筆頭に挙げるべきはこれだ。一冊じゃないじゃないかという意見もあるかもしれないが、全部挙げようとするとそれだけ余分にスペースを使ってしまうことになるだろう。内面の心理描写が中心であり、そういう意味では政治よりも人間心理の話題が前面に出ているところはある。既成の道徳に縛られずに奔放な生き方を貫く立場(libertinism)も権力とは決して無縁ではないことが学べるだろう。

2. ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』:政治の世界(政治的な行動)を理解するためには虚栄心やプライド、自己欺瞞の役割をおさえておくことがキーとなるが、この本ではそのあたりのことが学べる。スウィフトは「ゲームのルール」についても深く理解していることがわかる。

3. モンテスキューの『ペルシア人の手紙』:ところで、モンティ・パイソンの寸劇「Summarize Proust」(プルースト要約選手権)はもうご覧になっただろうか?

4. ソポクレスの『アンティゴネ』:「家族の掟」と「国家の掟」との対立は今もなおイラクをはじめとして多くの地域を悩ませている問題だ。

5. ホメロスの『オデュッセイア』と『イリアス』:『オデュッセイア』は物語としても優れているが、比較体制論の深遠な研究としても読める。『イリアス』を読めば戦争に関する冷酷な真実を学べるだろう。

上で挙げた作品はどれも普通の意味での小説には括られないところは個人的に興味深く感じる。カフカの『審判』は世俗の出来事を扱っているというよりは神学の分野に括られる作品だというのが私なりの読み方だ。冒頭で触れたエコノミスト誌のブログでは「職業としての政治」について学べる小説として『プライマリー・カラーズ: 小説アメリカ大統領選』とチャールズ・パーシー・スノー(C.P. Snow)の『Corridors of Power』(「権力の回廊」)、そしてロバート・ペン・ウォーレン(Robert Penn Warren)の『すべて王の臣』の三冊が推薦されている。

アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)が発行しているアメリカン誌で「ビジネスをテーマとした小説10選」が掲げられている3が、「ビジネスについて学べる小説は何だろう?」と考えてみることは「政治について学べる小説は何だろう?」と頭を巡らすことに比べるとそれほど有益でもなければそんなに楽しい営みでもないだろう。それはどうしてかというと、ビジネスの世界における真実はフィクションの枠組みの中では陳腐なものに見えてしまうためなのだろう。

  1. 訳注;この点については本サイトで訳出されている次のエントリーも参照されたい。 ●アレックス・タバロック 「ロマンティックな経済学者」(2016年1月14日) []
  2. 訳注;『リチャード二世』/『ヘンリー四世 第1部』/『ヘンリー四世 第2部』/『ヘンリー五世』の四部作。 []
  3. 訳注;リンク切れ。代わりに件の話題を取り上げている次の記事を参照されたい。 ●Nick Gillespie, “The 10 Best Business Novels. Or Not.”(reason.com, January 25, 2007) []

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