Population Immiseration in America
August 21, 2018 by Peter Turchin
昨年、私はある人物と興味深い会話を交わした。彼女をワシントン・インサイダーと呼ぼう。彼女は、おそらく2020年代に政治的暴力の大流行でピークを迎えるであろう米国の不安定性の増加を、私の構造的人口動態モデルが予測した理由について尋ねた。私は3つの主要な力に基づく説明を始めた。大衆の貧困化、エリート内競争、そして政府の脆弱性。だが彼女が質問してきたため、それ以上は説明できなかった。貧困化とは何か? 何の話をしているのか? 今ほど暮らし向きのいい時代はない。世界的な貧困は減っているし、小児死亡率は低下し、暴力も減少している。過去の世代と比べれば奇跡のような水準のテクノロジーにアクセスできる。マックス・ローザー [1]原文はMax Rosenとなっているが正確にはMax Roser、Our World in Dataの創設者 が集めた大量のデータを見よ。物事がいかにうまく行っているかはっきり理解できるスティーブン・ピンカーの本 [2]暴力の人類史(上)と(下) を読めばいい。
このバラ色の見方には、それを支える3つのバイアスが存在する。第1は世界的な課題への着目だ。だが中国における貧困の減少(中国の人口はあまりに大きいため、これが世界の貧困減少を推進している)や、アフリカにおける小児死亡率の低下は、アメリカの労働者には関係ない。どんな場所でも人々は、遠い地域の誰かとではなく、両親の家で経験した生活水準と今の自分とを比べるものだ。そしてアメリカ大衆の大半は、(以下で見るように)多くの重要な面で両親より自分たちの暮らしの方が悪くなっていると見ている。
第2にワシントン・インサイダー氏が話していたのは、1% [3]所得上位1%の意味 の他のメンバー、及びトップ10%の何人かについてだ。そしてアメリカ全人口のうち所得トップの人々は、大変ありがたいことにこの数十年、大成功を収めてきていた。
第3に多くの経済統計は話半分に聞かなければならない。政府系機関は、公表する統計に肯定的な偏りを持たせるよう、しばしば相当な政治的圧力を受ける。多くのエコノミストたちはその分野で成功するため、経済エリートや他の時の権力者たちを喜ばせるよう一生懸命働く。幸いにも、我々に別の視点を提供してくれる「異端の」エコノミストは十分に存在する。ただしこれは統計が「真っ赤な嘘」より悪いという意味ではない。逆に統計なしで我々がどこに向かっているかを理解することはできない。異なる統計が異なる答えをもたらす理由を知る必要がある、というのがここでの要点だ。
では普通の、非エリートのアメリカ人のウェルビーイングには何が起きているのか? 私の本では、大まかに3つのウェルビーイングを測定している。経済的、生物学的(健康)、そして社会的なウェルビーイングだ。
経済的ウェルビーイングを見る最も普通の統計は、1人当たりの世帯所得傾向だ。しかしこれは2つの理由から、経済的ウェルビーイングを測るうえで特にいい方法ではない。第1に世帯の規模は小さくなっている(アメリカ人の持つ子供が少なくなっている)ため、稼ぎ手の同じ賃金はより少ない人数で分かち合うことになり、物事がよくなっているという幻想を生み出している。第2に大量の女性が労働力に参入してきた結果、50年前の稼ぎ手が1人だった世帯と比べ、今日の典型的な世帯は2人の稼ぎ手を持つようになっている。さらに成人した子供が家を去らないため、今日ではさらに多くの世帯で稼ぎ手が2人を超えている。双方の要因の結果、アメリカ人が経済的にいかにうまくやっているかについて、世帯所得の推移は過度に楽観的な見方を生み出している。
アメリカの労働者の状態について見る最良の方法は、非エリート労働者(つまりCEOたち、高収入の企業弁護士たち、トップアスリート、そしてロックスターを除くという意味)の典型的な賃金に焦点を当てることだ。以下は2つの典型的な非エリートグループの実質(インフレ調整済み)賃金だ。
パターンは明白だ。1970年代後半までの素早い、ほぼ直線的な上昇と、その後の停滞及び低下(特に非熟練)だ。以下は1979年以降の男性賃金のより詳細な分析で、賃金の百分位数ごとに分解している(10thが最も貧しく、95thが最も豊かだ)。
なぜこうなったのか? 実質賃金の上昇が止まった理由 [4]邦訳は1本目、2本目、3本目、4本目をそれぞれ参照 という一連の投稿でこの問いに答えている(人気のあるブログとシリーズを参照)。簡単に言えばその答えは、移民、製造業の仕事が海外に敗北したこと、労働力への大量の女性参入(かくしてこの要因は世帯所得を膨らませた一方で逆に男性の賃金を押し下げた)、そして労働に対する態度の変化の組み合わせにある。これらの影響を加味したモデルは、1970年代の転換点とその後の変動の双方を把握するうえで実にいい仕事をしている。
実質賃金という統計の潜在的な問題点は、名目賃金をインフレ調整する必要があることだ。この段階で多くのペテンが起こり得る。これは大きなテーマだ(おそらく将来の投稿で触れるだろう)。本の中で私はこの論点を避け、名目賃金を、同じく名目ドルで表した1人当たりGDPで割った「相対賃金」に焦点を当てた。以下はこの統計で、米国の歴史全体におけるアメリカの労働状態を示したものだ。
もう一つの重要な指標は雇用機会だ。政府系機関が公表している失業率はあまり役立つ統計ではない。それが告げているのは短期的な変動についてであり、求職を諦めた人々は除いているからだ。よりよい測定法は労働力参加率のグラフであり、特に男性のデータだ。
学歴で男性を分けたのは、労働参加率の低下が実際に労働力需要の減少に起因しているかを確認するための方法だ(高校中退者は大学教育を受けた男性より仕事にありつく見込みが少ない)。トレンドは一様に下がっているが、学歴の低い男性ほど最悪だ。
この悪い知らせをごまかす1つの愉快な方法は、私の以前の投稿に対するコメントの1つをを指摘するというものだ。マーク・アギアとエリック・ハーストによるNBERの論文「レジャーの傾向を測る」では、1965~2003年に「男性のレジャーは週当たり6~8時間増えており」、そして「このレジャーの増加はおよそ1年当たり5~10週間の休暇増に相当する」と楽観的に結論付けている。だが論文を注意深く読めば、この「レジャーの増加」は「労働時間需要」の減少によってもたらされているのが分かる。つまり高卒かそれ以下の学歴を持ち、1970年以降に労働力からドロップアウトした余分な10%の男性はすべて、単に「仕事の中断」を味わっているだけにすぎない。
ウェルビーイングの経済的測定値は物語の一部しか語っていない。私にとって最も衝撃的だった展開は、1970年以来の貧困化がウェルビーイングの生物学的な測定値に影響していたことだ。以下は平均身長の推移グラフだ。
グラフ(a)は地元生まれアメリカ人の平均身長が1970年代までは急速に伸び、それから止まったことを示している。本当にショッキングなのは人口の一部(黒人女性)において、その絶対値が実際に下がっている点だ。グラフ(b)は経済的及び生物学的ウェルビーイングの測定値の間にある明白な関係を示している(Ages of Discordでこれについてさらに説明している)。
他の健康の測定値である平均余命についても、同様の状況にある。全体として、アメリカ人は(例えば西欧におけるしっかりとした平均余命の上昇に比べて)相対的に押され気味だ。人口のいくつかのセグメントにおいては絶対値でも数字が低下している。以下はデータのとりわけ明白な外見だ。
赤い郡と2016年にトランプに投票した郡との相関はかなり明らかだ。
普通のアメリカ人の健康悪化原因と思われる要因については、最近多くの議論がなされてきている。語る場所がないのでそこには立ち入らないが、以下はその要素の1つだ。
最後に、社会的ウェルビーイングのいい指標となるのがアメリカ人の既婚者割合、あるいはその代案としての、彼らの結婚年齢だ。
近代化は長期にわたる結婚年齢の上昇を推進している(上のグラフ)。我々はそのトレンドの周辺における上下の変動に興味がある(下のグラフ)。ウェルビーイングが上昇している期間(例えば1900年から1960年まで)に、平均結婚年齢は下がる傾向にある。貧困化はこの数字を上げている。実際には人々のうちますます多くの割合が全く結婚しなくなっている。彼らの多くは両親のもとにとどまり、彼らの収入は世帯所得統計が増えるのを助けている。
我々はジョナサン・ハイトらの著作から、社会への定着こそ個人的ウェルビーイングを説明する最も強力な要因の1つであることを知っている。配偶者を得ることは、社会に定着するための最も基本的な手段の1つだ。だがロバート・パトナムが集めた他の様々な指標によれば、アメリカ人は次第につながりが薄くなっている(この件については別の投稿で書いた)。
要するに普通のアメリカ人のウェルビーイングが過去40年に低下していることは、様々な指数が示している。この点を構造的人口動態理論の専門用語で貧困化と呼んでいる。
原注:2017年[ママ、2018年]8月22日、1979年以降の男性賃金を賃金の百分位数ごとに分けた図を追加。