スコット・サムナー 「三つの問い」(2019年4月23日)

①何かが在(あ)るのはなぜなのか? ②何も無いよりも何かが在る方が「よい」のだろうか? ③以上の二つの問い(①&②)に答えることは可能か? 「然(しか)り」とするなら、それはいかにしてか?
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/3731468

哲学を専門的に学んできたわけではない門外漢からすると、哲学というのは三つの基本的な争点を主題とする知的な営みであるように思える。

  1. 現実 (存在論の領分)
  2. 価値(倫理学、美学の領分)
  3. 知識(認識論の領分)

それぞれの争点ごとに基本的な問いが存在する。

  • A. 何かが(無いのではなく)在るのはなぜなのか?(存在論における問い)
  • B. 何も無いよりも何かが在る方が「よい」のだろうか?(倫理学/美学における問い)
  • C. 上の二つの問いに答えることは可能か? 「然り」とするなら、それはいかにしてか?(認識論における問い)

A~Cの三つの問いのどれであれ、いくらか自信を持って答えるのは不可能だと思う。哲学という学問がなかなか進歩できずにいるのは、そのためなのだ。上の三つの問いのいずれにも答えることができたら、もっと細々としたあれやこれやの問いに答えるための枠組みが整えられることになるだろう。ありとあらゆる事柄が収まるべきところにうまく収まることだろう。

二番目の問い(B)に「明らかにイエス(『よい』のは明らかだ)」と答える人もいるだろうし、私もその仲間に加わりたいところだが、大半の人はその理由を説明するのに四苦八苦することだろう。「(何も無いよりも何かが在る方が)『よい』のは明らかだ。なぜなら、『かくかくしかじか』だからだ」って答えたとしよう。すると、その「かくかくしかじか」とやらは、少なくとも朧(おぼろ)げなものではあっても、「価値の理論」の一つ――功利主義とか、キリスト教とか――を形作ることになろう。しかしながら、哲学者全員に受け入れられている「価値の理論」なんてものはない。「もっともらしい理論であればどれであれ、何も無いよりも何かが在る方が『よい』ということを暗示しているじゃないか」・・・なんて口にしてはいけない。だって、そうじゃないから。ヘンリー・デイヴィッド・ソローも言っている。

多くの人々は、静かなる絶望の日々を生きている。

ソローの言う通りかもしれないのだ。

私の素人じみた哲学談義なんて誰も気にしないのは、わかりきっている。じゃあ、社会科学談義ならどうだろう? “The Great Danes”(「偉大なるデンマーク人」)と題した拙論文で、社会科学には主題となる三つの基本的な問いがあると述べた。倫理にまつわる問い、因果にまつわる問い、知識にまつわる問いの三つだ。

  • 「良き社会」(good society)っていうのはどんな社会?(倫理学の領分)
  • 「良き社会」を実現する力を一番備えているのはどんな政策?――「良き社会」を実現するための最善の政策とは?――(経済学の領分)
  • どの政策が(「良き社会」を実現する上で)最善なのかについて人によって意見に違いがある時に、どの政策が最善かをどうやって決めればいい?(政治学の領分)

それぞれの問いに対して私なりに「これこそが答えだ(これこそが答えを与えてくれる)!」と思うものは、以下の通り。

  • 功利主義 (デンマークを見よ)
  • 新自由主義(シンガポールを見よ)
  • 民主主義(スイスを見よ)

社会科学者の面々は、上の三つの問いのうち一つか二つしか考慮しないでいることがあまりにも多すぎるように思える。

最後に、金融政策が絡む問いに移るとしよう。

  • A. マクロ経済における「最善の結果」とは?
  • B. 金融政策に課せられる目標(ターゲット)のうちで、マクロ経済における「最善の結果」をもたらす可能性が最も高いのはどれ?
  • C. 金融政策の舵をどっちに切るべきかを知るにはどうすればいい?

一番目の問い(A)に対する私の答えは、「現実の失業率が自然失業率の近辺にあって、一人当たりの名目所得がゆっくりとではあるが着実に伸び続けている状況」。別の目的を加える人もいるかもしれない。例えば、「すべての少女がクリスマスにポニー(小馬)をプレゼントしてもらえる」だとか。私としては、金融政策で影響を及ぼせそうな変数だけをAに対する答えの中に含めさせてもらった。

二番目の問い(B)に対する私の答えは、「4%近辺の名目GDP目標」(名目GDPの成長率が4%近辺を達成するのを目指す)。

三番目の問い(C)に対する私の答えは、「名目GDPの成長率に関するマーケットの予想が目標値(4%近辺)に等しくなるように金融政策のスタンスを調整すればいい」。

何か見逃してないだろうか?


〔原文:“Three questions”(TheMoneyIllusion, April 23, 2019)〕

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