アダム・トゥーズ「2022年、極右(?)メローニの『イタリアの同胞』に投票するのはどんな人?」(2022年9月26日)

「イタリアの同胞」に投票するのはどんな人達なのだろう? なぜ中道左派はここまで悲惨な結果を迎えるのだろう?

Chartbook #154 Who is going to vote for Italy’s right-wing coalition?
Posted by Adam Tooze,on Sep 23, 2022

我々の多くは、この事態にならないことを願っていたのだが…。

マリオ・ドラギ政権の早すぎる崩壊に端を発した日曜日のイタリアの総選挙では、ベルルスコーニの「フォルツァ・イタリア」、マッテオ・サルヴィーニの「同盟」、ジョルジャ・メローニの「イタリアの同胞」による右派連合が決定的な勝利を収めそうだ。中道左派政党「民主党」は、世論調査ではそこまで悪くなく、得票率では2位となりそうだ。しかし、「民主党」は効果的な連立を組める見込みがないため、敗北する運命にある。

世論調査で決定的な差をつけてリードしているのは、「イタリアの同胞」である。「イタリアの同胞」は、2012年12月に、かつて存在したネオ・ファシスト運動の再結成して設立され、欧州危機の渦中にベルルスコーニ政権が崩壊した後に極右勢力となり、右派陣営内の勝利者として台頭した政党だ。ネオ・ファシスト運動とは、ムッソリーニのサロ共和国 [1]訳注:第二次世界大戦中にイタリアが連合国に降伏した後、ナチスドイツによってイタリア北部に作られた傀儡政権。 の残党によって1946年に結成された「イタリア社会運動(MSI)」に起源を持つ運動である。「イタリアの同胞」は、2018年の国民投票では、わずか4.4%しか獲得できなかったが、日曜日(2022年9月25日)には、その6倍の投票率を獲得すると予測されている。ファシストによる政権掌握から100年後の2022年秋、若い頃にムッソリーニを偉大な指導者として讃えたジョルジャ・メローニが、イタリア初の女性首相になりそうだ。

2018年と比較すると、「イタリアの同胞」の成功は、他の保守政党から支持者を奪い取っていることにある。世論調査によると、イタリアの同胞は、2018年の選挙での〔穏健右派政党〕「同盟」に投じられた票の44%、〔右派政党〕「フォルツァ・イタリア」に投じられた票の38%を獲得するとされている。五つ星運動からは、わずかだが票を奪っている。

2018年に投票した有権者の今回の投票先
出典:Cluster17

「五つ星運動」からは、全方位に有権者が流出している。流出先は、「イタリアの同胞」だけでなく、「民主党」にも向かっている。

疑いようもなく、我々多数にとって、メローニの勝利が確実視されているのは痛ましい出来事だ。「イタリアの同胞」に投票するのはどんな人達なのだろう? なぜ中道左派はここまで悲惨な結果を迎えるのだろう? との疑問が湧いてくる。

私のポッドキャスト「Ones and Tooze」の最新回ではイタリアの総選挙を扱っている。収録の際に気づいたのだが、英語メディアでは、イタリアにおける極右の歴史や、ジョルジャ・メローニという人物についての分析は大量に存在するが、メローニや他の候補者にどんな人が投票するのかを予測するデータが見当たらないことだ。

世論調査の全体的な数値が判明しているのは非常に良いことなのだが、有権者が具体的にどのような動機で投票しているのかを知るには、国内の様々な地域別・年齢層別・男女別、あるいは職業・教育・所得水準に応じた投票行動を知る必要がある。

こうしたデータは英語メディアでは存在していなかったため、ツイッターで情報提供を求めたところ、ツイ友達から非常に有益なリプライを大量に受け取った。特に、@tommsabb @ericvautier @jtbrowe @FulvioLorefice @antoniofocella に感謝する。


〔ミラノに本拠を置く〕コリエール・デラ・セーラ紙による一連のデータは、大枠を教えてくれる。

政党の支持については、女性は右派を支持するにあたって、男性より右派の古い政党、つまり「同盟」や「フォルツァ・イタリア」を若干だが支持する傾向にある。逆に、右派を支持する男性は、「イタリアの同胞」や「フォルツァ・イタリア」をやや支持している。しかし、男女間で大きな違いとなっているのは、女性のほうがはるかに大きな割合で、「投票を決めかねている」、もしくは「まだ未定」と答えていることだ。

年齢別に目を向けてみると目立っているのが、若年層が、中道左派の「民主党」を相対的に最も支持している事実だ。「民主党」はまた、65歳以上の有権者、つまり1992年の冷戦体制崩壊以前に思想形成した有権者に特に強く支持されている。「五つ星運動」の主な支持者は、若年層だ。一方「イタリアの同胞」は、若年層・高齢者層からの支持は限定的で、中高年から強く支持されている。この傾向〔若年層・高齢者層不支持&中高年層支持〕は、「同盟」の支持層で特に顕著となっている。

学歴を軸にしてみると、トマ・ピケティによって強く指摘されている、近代民主国家の多くで観察されているパターンが浮き上がる。大卒者による中道左派政党「民主党」への投票割合は、〔保守政党〕「イタリアの同胞」と「同盟」の合計より大きくなる可能性が高い。イタリアの高学歴層が最優先しているのは、リベラルで進歩的な政治だ。「イタリアの同胞」はどの教育層からも比較的同水準の支持を得ているが、「同盟」は明らかに低学歴層に偏って支持されている。

この傾向は、職業データからも確認できる。中道左派の「民主党」は、リベラルな職業である、ホワイトカラー労働者、教育者層から最も支持されており、一般労働者層や失業者層からはあまり支持されていない。「同盟」の支持層は、一般労働者層に偏っている。「五つ星運動」は失業者層から強く支持されている。「イタリアの同胞」が有望となっているのは、(学生を除く)あらゆる職業からまんべんなく支持されていることにある。

社会分析集団Cluster17は、より詳細な職業別の支持率データを発表しており、これはコリエール・デラ・セーラ紙の世論調査から読み取った傾向を裏付けている。

出典: Cluster17

Cluster17によれば、中道左派への一般労働者層による支持は9%と惨憺たる結果だが、年金生活者層からは29%、管理職・専門職からは34%と高く支持されている。〔中道右派〕「同盟」の支持層ではこれが逆転しており、一般労働者からは約2倍の21%の支持を集めている。しかし、イタリアの一般労働者層から最も支持を集めているのは「イタリアの同胞」である。「イタリアの同胞」は、一般労働層の30%近くの支持を集めている。つまり、この一般労働者層からの支持が、右派連合を強く有利にしているのだ。よって、3党による右派連合は、今回の選挙で、イタリアの一般労働者層の票の58%を獲得するだろうと予測されている。

職業別データから見られるパターンは、所得別のデータでも強く確認される。中道左派「民主党」への支持率は、所得の上昇とともに単調に増加している。月収5,000ユーロ以上の有権者は、1,000ユーロ以下の有権者に比べて、「民主党」に投票する確率がほぼ3倍となっている。「五つ星運動」に関しては逆となっている。「五つ星運動」は、最低所得者層の28%から支持されており、この数値は総支持率14.1%の約2倍である。「同盟」は、1,000〜1,500ユーロの所得層から最も強く支持されている。また「イタリアの同胞」は、所得階層による支持率の差が比較的小さいことを特徴としている。

出典:Cluster17

つまり、学生や年金生活者層から支持を集めていないという点を除けば、職業や所得のデータからは、「極右の『イタリアの同胞』」の支持者の姿はあまり見えてこない。メローニ自身もローマ郊外の労働者階級の出身であり、これは労働者階級の有権者に好印象を与える一方で、他の社会階層にもマイナスとならない要素だ。

すると、「イタリアの同胞」に投票する人の動機を、大きく括れるものは何かあるのだろうか? 答えは、「文化や信仰に基づいている」となる。これは、はっきりと可視化されている。

イタリアの有権者をざっくり割るとするなら、宗教である。

出典: Cluster17

イタリアは、総人口の1/4が自身を無信仰と位置づけている社会だ。そして、20%がカトリック教徒。さらに、人口の半数はカトリックに共感しているが、〔信仰を〕実践していない。

中道左派は、自身を無信仰者と位置づけている人の間で圧倒的に支持されている。同じように、「五つ星運動」も、無信仰者から比較的強く支持されている(支持層の27%が無信仰者)。「同盟」とベルルスコーニの「フォルツァ・イタリア」は、どの政党よりもカトリック教徒からの支持を多く集めている。「イタリアの同胞」は、カトリックを共感しつつも〔信仰を〕実践していない層(イタリア社会の最大多数派層である52%))から最も支持されている。逆に、連立右派政党である3政党は、無信仰者からほとんど支持されていない。

Cluster17では、イタリアの人口をいくつかの社会・文化的階層に分け、さらに深く掘り下げた分析を行っている。

出典:Le Grand Continent

この分析ではイタリアを様々なグループに分け、以下の3つの政治的態度でそれぞれ、どのような立場を取るかを調べている。

(1)移民支持、EU支持、反権威主義 vs. 反移民、EU懐疑派、権威主義的な文化態度

(2)階層間格差および南北格差への再分配の賛成 vs. 反対

(3)宗教的に敬虔 vs. 世俗的

社会的・文化的態度をクラスタとして区別するには、以下のような一連の質問で分類することができる。例えば「不法移民の、イタリアの病院への立ち入りを禁止すべきか?」等だ。この質問には、権威主義者やアイデンティタリアン(国家同一主義)〔訳注:欧米の白人ナショナリズム思想〕は支持し、進歩的急進派や、社会主義的カトリックや社会民主主義者は反対する。

出典:Le Grand Continent

この緻密な分析によって、イタリアで各政党を支持している、社会的・文化的背景の見取り図を浮かび上がらせることができる。

出典:Le Grand Continent

分析は、左派が相対的に弱くなっている原因として、進歩的急進派、社会民主主義者、社会主義的カトリック教徒の3つのクラスターにだけ強く受けている事実を示している。これらグループは、高齢者か若者から多く構成されている傾向にあり、中高年層は少ない。また、これらグループは高学歴の人から多く構成されている。〔中道左派〕「民主党」を支持する3つの基盤クラスターは、アイデンティティタリアン(国家同一主義的政策〔白人中心主義的ナショナリズム〕)に反対する点では共通しているが、宗教に関しては意見が分かれている。「民主党」は、急進的な改革に反対しているため、右派のアイデンティティタリアン的政策に反対しつつ、「五つ星運動」が提示している反体制的メッセージに惹かれているタイプの大衆票の獲得を困難としている。

対照的に、「イタリアの同胞」の強みとなっているのが、穏健保守派から、アイデンティティタリアン、権威主義者(「同盟」と票を二分している)に至る、5つの異なる保守クラスタからの支持を得ていることだ。「イタリアの同胞」の最支持層が、右派内の現代的過激派ではなく、伝統的保守派であることも、これを裏付けている。また、「イタリア同胞」は、反福祉主義者(反公助論者)からも強く支持されている。

この分析は、「イタリア同胞」への支持者の急増は、2018年に確立されたパターンの延長線上にある事実を明らかにしている。〔現在イタリアの〕基礎的な社会アイデンティティと投票先の再編成は、冷戦終結後に数十年かけて確立された。〔冷戦終結から〕2018年までに、イタリアの労働者は、右派陣営に流れ込んでいる。メローニは、競合相手の右派政党からの票の収奪し、超党派的なドラギ政権とのいかなる妥協をも拒否した陣営となることで、右派と保守層からの幅広い意向を結集させたのである。「五つ星運動」は、左派として獲得できる低所得者層と若年層の票をいまだに多く獲得している。「民主党」は高学歴・高所得者層を代表するアッパーミドルクラスの政党となったが、結果、安定過半数を獲得できる見込みがゼロとなった。

〔アイキャッチ画像は、ウィキペディアより〕

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1 訳注:第二次世界大戦中にイタリアが連合国に降伏した後、ナチスドイツによってイタリア北部に作られた傀儡政権。
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