スコット・サムナー 「権力は腐敗(堕落)させる。権力を持つ者に加えて、権力を持たざる者までをも」(2020年6月19日)

権力を行使する人間だけが腐敗(堕落)してしまうかというと、そうじゃない。権力が行使されている様を傍(はた)から見ている人間(権力を持たざる多くの者たち)も腐敗(堕落)してしまうのだ。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/22006412

アクトン卿のかの格言――「権力は腐敗しがちな傾向にあり、絶対的な権力は絶対的に腐敗する」――についてはよく知られているだろうが、権力を行使する人間だけが腐敗(堕落)してしまうかというと、そうじゃない。権力が行使されている様を傍(はた)から見ている人間(権力を持たざる多くの者たち)も腐敗(堕落)してしまうのだ。

権力には、「権力を持たざる者たち」の「権力を持つ者」に対する見方を変える力が備わっている。権力には、強大な権力を手にしている人物を実際よりも高潔であるかのように見えさせる力が備わっているのだ。権力を持つ者が誰かに批判されていると、権力を持たざる者たちは権力を持つ者についつい肩入れしてしまう。その誰かの言い分にはもっともなところがあると心の中で感じていたとしてもだ(権力を持つ者が女性であっても同じだろうと思う。たぶん)。

保守派の多くは、トランプ大統領よりも、ボルトン/セッションズ/マティス/ティラーソン/ケリーといった権力の中枢にいながらにしてトランプ大統領に攻撃(批判)を加えている面々と考えも性格も近いだろう。しかしながら、トランプ大統領が攻撃(批判)されているのを目にすると、攻撃(批判)している人間は嘘をついていて、トランプ大統領は無垢な被害者なのだと本能的に信じ込んでしまうのだ。

何よりも重要なのは、保守派の多くがそういう結論に至るのは客観的な情報に照らした上でのことではないということだ。むしろ、あらゆる証拠(客観的な情報)は、トランプ大統領を攻撃している側に分(ぶ)があることを示している。トランプ大統領が手にしている権力の威光が保守派の多くの精神を知らず知らずのうちに弛(たゆ)ませて、明らかな間違いを信じ込ませるに至っているのだ。

言うまでもないが、民主党支持のリベラル派は、真逆の対応を見せている。しかしながら、この件に関しては、リベラル派の方がまっとうだ。というのも、客観的な情報のどれに照らしてもボルトンらの側(トランプ大統領を攻撃している側)が正しいことを指し示しているのだから。リベラル派は、ボルトンらの政治姿勢を買ってはいないにしても、ボルトンらの側の方がトランプ大統領よりも実直だと信じて疑っていないのだ。

アメリカの大統領は、あまりにも強大な権力の持ち主だ。権力を持たざる者たちを腐敗(堕落)させる可能性というのは、「帝王的大統領制」(imperial presidency)がもたらす数多くの好ましからぬ帰結のうちのあくまでも一つの弊害でしかないのだ。

クーリッジのような当たり障りのない大統領こそが理想と言えよう。バイデンの方がトランプよりもその理想にいくらか近い。


〔原文:“Power corrupts (others)”(TheMoneyIllusion, June 19, 2020)〕

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